病という「試練」。『バクマン』6巻書評
- 作者: 小畑健,大場つぐみ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/01/04
- メディア: コミック
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週刊少年ジャンプでの連載そのものは3年目に突入し、現在「2周目」に突入した感がありますが*1、『このマンガがすごい2010』第1位になるなど連載開始時の緊張感を良い具合に保っています。
6巻では、彼らの再びの挫折について描かれています。
病気と休載
5巻では連載開始した『疑探偵TRAP』が、アンケートの結果で紆余曲折しながらも「推理マンガでトップをとる」と決意、その結果アンケートも上昇し新妻エイジ『CROW』に並ぶなど上々の様子を見せたサイコー・シュージンの二人ですが、6巻ではそんな彼らを試練が襲います。
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過労によるサイコーのダウン。「肝臓にばい菌」「摘出」などの医者の言葉から、「肝膿瘍(かんのうよう)」という病気ではないかと思われますが*3、とにかくこの病気により、連載継続に赤信号がともります。
会社員と異なり、漫画家という職業は「一日作さざれば一日食らわず」*4と休載が即収入減につながる厳しい状況です。
編集長はサイコーに「高校卒業まで休載」を宣言しますが、サイコーたちにとってみればまさに死活問題。よほど実力ある作家ならともかく、デビュー早々の漫画家が数ヶ月連載をストップするのは、「読者が離れていく」リスクも含めサイコーたちが抵抗するのもわかります。
しかしながら編集長が
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と言っているとおり、過去に体調を崩していく数多くの漫画家たちをみてきたからこその重みのあるセリフなのかもしれません。
漫画家・小林まことの自叙伝的マンガである『青春少年マガジン1978〜1983』でも、過酷な環境故に体を崩し、それでも且つ漫画を描き続ける漫画家たちの話が描かれていましたが、
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まさに漫画家が連載していくにあたり
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が不可欠であると感じたエピソードだと思います。
一方、『バクマン。』という物語をメタ的にみたときに、「病気」という展開は巧いなぁ、と感じました。
連載当時からこの漫画を「スポーツ漫画のフォーマット」になぞらえて解説しましたが、「エースのケガ(あるいは病気)」による戦線離脱は、スポーツ漫画にはなくてはならない障害です。
バトル漫画でもそうですが、主人公の敗北の理由としては「主人公を上回る敵」か「主人公が全力を発揮できない状態」のどちらかしかないと思うのですが、主人公がある程度能力を持つ物語の場合、また「努力」が比較的薄い(現代の)物語を描く場合、主人公に対するハンデは敗北の理由として不可欠です。
『バクマン。』もまた、「才能の行き詰まり」というカードを伏せたまま主人公に困難を与え、『疑探偵TRAP』の連載に赤信号をともすという展開は見事です。
ある意味「ベタ」ではありますが、病気による休載という漫画家を取り巻く事情により説得力のある展開になっていることもまた事実です。
漫画家たちの反乱
しかし、『バクマン。』が他の漫画家漫画と一線を画すのはこのあとのストーリー展開からです。
編集長に高校卒業までの休載を告げられたサイコー。
その裁きに納得いかない福田真太らは、「休載宣言を撤回するまで自身の漫画もボイコットする」と、同じアシスタントをしたよしみであるサイコーをアシストし、編集局に反旗を翻します。
彼に賛同した新妻エイジをはじめとする、これまで登場した漫画家たちも彼に同調。サイコー・シュージン含め前代未聞の5組の休載になります。
現実にはあまりありえない状況かもしれませんが、フィクションとリアルの絶妙な綱渡りを行っている『バクマン。』ならではの展開であり、「ひょっとしたらあるかも」と思わせます。
実際、編集者と漫画家の間でトラブルが発生した場合、パワーバランス的に兵糧攻めを行える編集者が有利であることは確かです。特に今回のような新人漫画家が相手だった場合は特に。
そういう意味では、漫画家が対抗できる手段の一つとして「組合」ならぬ横のつながりによる「集団ボイコット」は有効である可能性もあります。
とはいうものの
マンガ界には70年代から「作家組合」のようなものを作ろうとしては、頓挫してきた歴史があるのです。
(たけくまメモ「マンガ界“組合”アレルギー真の理由?」より)
●http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_1ff3.html
実現性は難しいかもしれませんが、今回の展開は読者に「考えるネタ」を与えることに成功していると思います。
「ジャンプシステム」などリアリティ溢れる「ルール」の上で「if」のネタを交える物語の進め方は、『バクマン。』の真骨頂であると言えるかもしれません。
復帰と試練
サイコーの根性で休載を撤回させたものの、『疑探偵TRAP』を取り巻く環境は変わりアンケート順位が低迷し始めます。
「アンケート順位が低いと打ち切り」という暗黙のルールを明文化したのも『バクマン。』ですが、彼らに「打ち切り」という現実が忍び寄ります。
はたして『疑探偵TRAP』の行く末は?というところで6巻は「引き」となりますが、エピソードの積み重ねのみでここまで読者を引っ張る手法は読者として読んでもメタ的に読んでも非常に面白いと思います。
次なる彼らの試練は何か?7巻もまた楽しみです。
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青春少年マガジン1978~1983 (KCデラックス 週刊少年マガジン)
- 作者: 小林まこと
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/12/17
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