木々高太郎と野村美月の『文学少女』

 野村美月”文学少女”シリーズ『このライトノベルがすごい!2009』で1位を獲得したのを記念して、「文学少女」について少々語ってみたいと思います。
 野村美月”文学少女”シリーズは、謎解きミステリの体裁こそ保ってはいますが、作中で行なわれているのは”推理”ではなく、文学少女である天野遠子の”想像”です。物証や証言を基にした推理が無視されているわけではありませんが、メインとなっているのは文学作品になぞらえながら語られる登場人物たちの心の動きです。
 探偵小説も芸術の域にまで高めなければならず、そのためには文学的要素を重視しなければならないと主張して、かつて甲賀三郎江戸川乱歩などと論争を交わした木々高太郎という作家(参考:木々高太郎 - Wikipedia)がいます。彼の発表した作品は、謎解きものでありながらも心理主義的傾向を持ったものが多くみられる一方で、推理小説的要素の少ない心理小説も多数発表しています*1
 彼が書いた心理小説の傑作短編に、『文学少女*2があります。明治・大正時代の婦人解放運動を時代の遠景としたとても短いお話なのであらすじは語りにくいのですが、少女が文学に抱く気持ちや、なぜ文学は少女のものなのかといった主人公の文学に対する思いが、簡潔明瞭にして仮借なく描かれています。主人公の最後の言動には”文学少女”シリーズ天野遠子のそれと通じるものがあります。
 そんな昔からの”文学少女”たちの思いを、古今の文学作品をモチーフとすることで現代の”文学少女”たちに引き継がせる一方で、今生きている本読みの若者たちの物語としても共感を得られたことが、”文学少女”シリーズが支持を得た理由なのだと思います。
 私としてもオススメの作品なので、未読の方がおられましたらこの機会にぜひ手に取ってみてくださいませ。
【関連】
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”文学少女”が本を食べる理由についての駄文
”文学少女”の三題噺と小説のプロットについて
青空文庫で読む”文学少女”

*1:【参考】『日本ミステリー事典』(監修:権田萬治・新保博久/新潮社)

*2:『マイ・ベスト・ミステリー4』(日本推理作家協会・編/文春文庫)に収録。