”文学少女”の三題噺と小説のプロットについて

 ”文学少女”シリーズ本編における文芸部の部活動とは、遠子先輩から出される三つのお題を心葉が短い物語に仕立てて先輩に食べてもらうというのを基本的な活動としています。
 こうした三題噺の目的は何か?といえば、遠子先輩のおやつであることは間違いないのですが(笑)、もうひとつの大切な目的として、心葉に作家としての練習をさせているという側面があることを忘れるわけにはいきません。
 小説を書く上で大切なのはプロットとストーリーだといわれることがあります。両者の関係については、プロットが設計図でそれを時系列に並べたものがストーリーだとされています。
【参考】ストーリーとプロットの違い: 漫棚通信ブログ版
 このように考えますと、”文学少女”の場合には、遠子から出される三題噺のお題がプロットで、それをストーリーに仕立てて、さらには短いながらもひとつの小説として書き上げるという練習を心葉は日常的に行なってきたと理解することができるでしょう。
 こうした三題噺的なプロットとストーリーの関係は、”文学少女”という作品自体の構図にも深く関係しています。”文学少女”は過去の文学作品をネタ本にしてますが、それはいわば”文学少女”を書く上でのお題のひとつだといえます。それに加えて、ネタ本となっている文学作品の解釈や遠子や心葉を始めとする登場人物たちの心情・成長といったものもプロットの構成要素として挙げることができます。そうしたものプロットとした上で、それをどのようにストーリーとして構成し、さらには奥行きのある物語として描きあげていったのか。単純にページをめくって物語を読み進めていくのが面白いのはもちろんですが、推理小説仕立ての”文学少女”の物語からストーリーを経て、さらにはプロットまでを逆算的に読み解いていくのも”文学少女”の楽しみ方のひとつなのは間違いありません。そういう興味を引き出すことによって名作文学を読む上での道標にもなっているのが、本読みにとって”文学少女”の面白さでもあります。
 話のついでにプロットというものについてもう少し考えてみたいと思います。
 平井呈一『真夜中の檻』には中編小説二編と共に怪奇小説についてのエッセイが多数収録されていますが、その中のエッセイ「J・S・レ・ファニュ」では、『オトラント城綺譚』を嚆矢とするゴシック・ロマンスとは何かが簡単に説明されています。それによりますと、ゴシック・ロマンスとは次のようなものとされています。

 ここで今「ウドルフの怪」以下の梗概などを書いている時間はないが、こころみにゴシック・ロマンスの特徴などを要約してみると、
一、古城とか古い屋敷に、恐怖、怪異が起こること。
二、世界はだいたい中世である。
三、中世風の礼拝堂、寺院、墓地、地下室、地下道、落し戸などがかならず出てくる。
四、暗い森林、深い湖、絶望など、風景は荒涼暗澹たるものに限られている。
五、人物には暴君がでてくるか、あるいは陰険兇悪な人物がでてきて、かならず暗い陰謀事件がからむ。
六、女主人公は薄倖の美女、それに恋する美男、それと悪人。だいたいこのトリオである。
七、心理はおおむね恐怖・戦慄だけに限られている。
八、人物の性格は類型的。個性というものはない。
九、文章はものものしいが、物語の構成はそう緊密ではない。たいてい叙述体でダラダラしている。
十、悪人は亡び、善人は栄えるという、勧善懲悪に終るものが多い。
 などの諸点をあげることができるが、一言でいうとすれば、私はゴチック文学の功績は、小説にプロットの重要性というものを発見した点にあるのではないかと思っている。
『真夜中の檻』(平井呈一創元推理文庫)所収「J・S・レ・ファニュ」p250〜251より

 ゴシック・ロマンスというものが実に的確に分析されたものだと思います。これを見ますと、プロットの作成においては、読者にとっての読みどころを如何に的確に把握するかが大事だといえるでしょう。そして、作家と読者の間にプロットとして共通の要素が認識されたとき、それは”ベタ”もしくは”お約束”として定着していくのだと思います。
 ”文学少女”は、名作文学をモチーフにしつつキャラクター小説としての基本を抑えながらも推理小説的な展開を軸としているため、ストーリーには結構ベタなところがあります。そうしたお約束を着実に押さえると同時に、自由な想像力を発揮して物語を読み、あるいは書くことの楽しさを力強く謳い上げている点に”文学少女”の魅力があるのだといえるでしょう。

真夜中の檻 (創元推理文庫)

真夜中の檻 (創元推理文庫)

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