『半熟作家と“文学少女”な編集者』(野村美月/ファミ通文庫)

 ”文学少女”の最後の物語は、本編から時が流れて天野遠子が編集者として活躍しているお話です。
 とはいっても主人公は別にいて、雀宮快斗という十五歳の若さで薫風社文学新人特別賞を受賞して一躍ベストセラー作家となり、それがそのままシリーズ化して売れっ子作家となり、さらには男性モデルとしても活躍中という年収一億円超えのスター作家です。その一方で、まだまだ駆け出しの若手作家ゆえに作家としても学生としてもいろんな苦悩を抱えてたりして、つまりはタイトルどおり、半熟作家と”文学少女”な編集者のお話です。
 本編も井上心葉という小説家が主人公のお話でしたが、本書は本編ほど暗くてドロドロした雰囲気はありません。むしろ全編に渡ってコミカルな雰囲気に仕上がっています。また、心葉が小説家であることを周囲に隠していたのに対し、雀宮快斗(←本名)は作家としての自分を第一にしつつ学生生活を送っています。”文学少女"本編が、書くことへの苦悩、あるいは書き始めるまでの苦悩を描いた物語だとすれば、本書は書き続けることへの苦悩、書き続けることによって得られるもの、成長できることを描いた物語だといえるでしょう。
 作者と読者との関係、作品の方向性の違いをめぐる作家と編集者との関係、学校の友人との関係、そして自分の恋愛と作品との関係。
 自分の名前でググっての検索結果数と評判のチェック、ライバルとの比較、アニメ化・コミック化・ドラマ化・グッズ化といったメディアミックス、つまんねぇネット書評にぶち切れ(ホントすいません……)、「図書館で読みました」「古本屋で全巻購入しました」にまた切れて、そんな今どきの作家的なネタが本書冒頭でちゃんと押さえられているのが「つかみ」として巧みな点です。最初に作家あるある的ネタを最初にやってしまうことで、あとは雀宮快斗と”文学少女”な編集者との物語を描くことに専念されています。
 本編との関係でいえば、本編が学校という閉じた世界の中でドロドロした愛憎模様が繰り広げられていただけに、それから時が流れて、一般社会のなかで遠子さんが編集者として、”井上ミウ”が作家として活躍している姿を感得できるというのは悪い気はしません。”文学少女”のその後が明るくきれいに描かれていて、シリーズの最後の最後を〆るのに相応しいお話だと思います。”文学少女”をここまで読んできて本当によかったと思える一冊でした。
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