『”文学少女”と恋する挿話集 2』(野村美月/ファミ通文庫)

“文学少女”と恋する挿話集 2 (ファミ通文庫)

“文学少女”と恋する挿話集 2 (ファミ通文庫)

 ”文学少女”シリーズ短編集2作目は、1作目と同じくファミ通文庫◆FB Online◆に掲載されていたものに書き下ろし作品が加えられた構成となっています。
 内容的には、森ちゃん&反町くんのバカップルがメインのお話(「詩人」)と、シリーズ本編をななせ視点から見たお話(「恋日記」、特別編)と、心葉がロリコンやらマザコンやらと勘違いされたりする短編(「今日のおやつ」)との3つのお話が混在しています。
 森ちゃんはシリーズ本編でもななせを応援するキャラクタとしてチョイ役で登場していましたが、本書ではメインキャラとなっています。森ちゃんと反町くんのバカップルぶりは読んでてこっ恥ずかしくなるくらいのいちゃいちゃぶりですが、本編ではまともな恋愛関係というものがほとんど描かれなかったため、逆に新鮮なのが面白いです。
 一方で、そんな森ちゃんと反町くんの関係は、失恋の物語であるななせのお話と交互に語られることによる光と影のハイライトが強調されることにもつながっています。心葉視点のコミカルなお話にしても、ななせ視点の切なさを強調してしまっています。三角関係のお話においては、失恋した人物の心情をどれだけ描けるかが大事なテーマだと思いますが、その役割を担っているのが本書です。
 作中でもツンデレ、いやあれはデレがないだろ、といわれてしまうくらいに素直になることができない性格のななせですが、ななせ視点になると行動と内面とのギャップがさらに際立ちます。親しい友人にのみ見せる態度やメールやカレンダーで用いられている顔文字からは意外なくらいに女の子らしい一面が伺えて、ですが、肝心なところでそれを表に出すことができません。最初から最後まで諦めの気持ちがあった初恋は、それもまた覚悟だといえばいえるのでしょうが、釈然としない想いが残るのは否めません。”文学少女”は想像力によって想いを読み解く物語でしたが、ななせの想いは結局読み解いてはもらえず、伝えようとする想いも弱かったのだと。思うに、ななせの物語はこれからなのでしょう。現在進行中の外伝でどれだけななせの出番があるのか分かりませんが、そちらの方も注視してみたいと思います。
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