桑原太矩『とっかぶ』アフタヌーンKC

とっかぶ(1) (アフタヌーンKC)

とっかぶ(1) (アフタヌーンKC)

 剣も魔法も超能力も殺人鬼も登場しない、掲載誌「good!アフタヌーン」においては逆の意味で異彩を放っている放課後青春コメディーの、1巻が発売となりました。
 「くらげ」を名乗りアマチュアスパイを目指す倉下清大、ヒーロー志願の熱血少女・丹ノ宮沢、なんちゃって不良の人情家兼ツッコミ担当の千歳悠緑の3人が、ひょんなことから「特別課外活動部」、通称「とっかぶ」に入部させられることになり、街のよろずトラブルを請け負っていく青春コメディ漫画です。
 夜な夜な動くお地蔵様、犬さがし、食い逃げ犯の捕獲など、とにもかくにも小さな事件を熱血少女と冷めたスパイ少年とツンデレ不良少女が解決する、というド直球な物語。「一周まわって」などという通ぶった言葉を使わずとも、純粋に楽しめるストーリーです。
 序盤では登場人物たちの紹介も兼ねて掛け合いやキャラ特性に焦点が当てられますが、3、4話の「ラビット・パニック」というお話が秀逸。
 食い逃げという小犯罪に全力を尽くす食い逃げ犯「兎足のヤス」、彼の捕獲に全力を尽くす「とっかぶ」の対決が、若さと熱さが入り混じって非常に面白かったです。
 兎足のヤスが主人公たちに投げかけた言葉、

何だっていい
意味なんて必要ないのさ
人はとにかく意味を求めたがる
けれど人が何かを為す時に
大層な意味が在るかなんて事は重要じゃない
”豊かさ”は 意味の向こう側に在るのさ
(P152)

 まさにこの作品に通底するテーマともいえる一言です。
 「放課後」とは本来、学生生活の本筋とは離れたところにある「自由な時間・空間」であり、その延長線上にモラトリアムが位置する独特な存在です。しかしながら、その「放課後」で得たものこそがその後の人生の糧となり自らの背骨となることもあります。
 オビには「放課後満喫宣言」とありますが、まさに「部活ものではない部活漫画」とでもいうべき、青さと若さと熱さのごった煮でできている一冊。
 派手さはありませんが、それだけに静かに心に響いてくる作品でした。オススメです。
【ご参考】第一話試し読み