『ビブリア古書堂の事件手帖3 ―栞子さんと消えない絆』(三上延/メディアワークス文庫)

――ちなみに、物語を考えられるとき、本をテーマにされているんですか? それともエピソードから?
三上:両方ありますね。本からエピソードを考える場合もありますし、もともとこういう話がやりたいというのがあって、そこに本をあてはめる場合もある。だいたい半々ぐらいです。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/104/104875/より

 「本を読めない」という大輔の体質ですが、まったく同じというわけではなさそうですが、似たような障害として、「ディスレクシア(読字障害)」というものがあることを最近になって知りました。

ディスレクシア
 知的な遅れはないが、特に文字の読み書き学習に困難を伴う障害。失読症難読症、識字障害とも呼ばれる。長い文章や音読が苦手だったり、語句や行を抜かしたりする。著名人では米国俳優のトム・クルーズディスレクシアであることを公表し、注目を集めた。
違う「見方」苦しんだ 講演や著作で啓発 南雲明彦:Human Recipe:popress:北陸中日新聞から:中日新聞(CHUNICHI Web)より

 もしかしたら似て非なるものなのかもしれませんが、決して荒唐無稽な設定ではないということはいえると思います。
 古書堂とは古書道と見つけたり。というわけでありませんが、シリーズ3作目である本書では、大輔もいよいよ古書店員と古書店を経営する側として、古書の流通ルートや組合といったものに関わり始めます。その一環として「古書交換会」に栞子さんと一緒に参加することになりますが、そこで思わぬトラブルに巻き込まれることになります。それが「第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)」です。
 「第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』」は、依頼人の本についての曖昧な記憶から対象の本を探し出す、いわゆる「本の探偵」ものです。曖昧な記憶を確実なものにする。それは、思い出から様々な想いを抽出していく作業でもあります。誤解やすれ違いが解き明かされることによって生まれる理解と希望とが、栞子が母親に対している想いとのコントラストになっているように思います。
 「第三話 宮沢賢治春と修羅』(關根書店)」はタイトルどおり『春と修羅』が物語に深く関わっています。で、『春と修羅』は青空文庫でも読めるわけですが……なるほど、確かに(苦笑)。
 シリーズが進むにつれて、栞子と文香の母である智恵子の影が徐々に色濃くなってきています。古書にまつわる探偵めいた行為をしながらも母親のようにはなるまいと思うがために母親に縛られて、結果として恋愛に対して踏み込めない栞子の生き方。それは、大人に成りきれない大人、すなわちアダルトチルドレンの物語であるといえるでしょう。今後、古書については人後に落ちない栞子が、一人の女性としてどのように未来を切り開いていくのか。そのとき大輔がどのように関わっていくのか。続きを楽しみにしたいと思います。
【関連】
『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』(三上延/メディアワークス文庫) - 三軒茶屋 別館
『ビブリア古書堂の事件手帖 2― 栞子さんと謎めく日常』(三上延/メディアワークス文庫) - 三軒茶屋 別館