『子ひつじは迷わない 贈るひつじが6ぴき』(玩具堂/角川スニーカー文庫)

「舞台はとってもリアルよ。なにせ演目が実際に起こったのがこのロッジなんだもの。そしてあなたたちに演じてもらう役は、わたしたち」
 彼女の羽織ったケープが、翼のように翻った。
「五年前のロッジにいた、四人よ」
(本書p37より)

 何らかの筋書きや物語に見立てて進行するストーリー、というパターンがミステリにおいては時折り見られます。そうしたものを見立て殺人と呼んだりしますが(【参考】見立て殺人 - Wikipedia)、本書はそうした見立てが意図的に行われる物語だといえます。その目的は、見立ての対象となる物語のシステムの解明です。とはいえ、本書についていえば、すでに事故死として警察によって処理されている人物の死について、それが実は殺人であることを証明して欲しい、というバイアスがかかっています。そうした論理の倒錯は、その見立て(演目)を依頼した人物の心理の倒錯をそのまま反映したものでもあります。そうした倒錯を解きほぐすことと、真相を明らかにすることは、イコールのようでイコールではありません。
 それは、作中でも説明されているサンタクロースの例えがぴったりです。サンタクロースなどいない。といってしまうのは簡単ですが、それによって果たしてサンタの存在を信じている子供や、あるいはそれを信じさせようとしている親が報われるかといえば、一概にそうとはいえません。サンタ衣装の仙波というのが本書の表紙絵は、実際の作中での仙波の役どころであるとはいえ、一見すると妙なコスプレにしか見えません。ですが、探偵役とサンタクロースというのは、考えようによっては皮肉な関係でもあり、その着想こそが本書の妙味です。そういう意味で、本書が真に見立てているのはサンタクロースの物語である、ともいえます。サンタクロースとは実に微妙なバランスの上に成り立っている存在なのだということを、本書を読んで思ったりしました。
 「天幕荘殺人事件」の演目に沿った行動を求められる仙波と佐々原と会長と、そして真一郎たちの人間模様も、見立ての関係と重なる部分もあれば重ならない部分もあって、それによって気持ちが揺らいだり揺らがなかったりしてと、各キャラの性格や関係性がニヤニヤな展開を通じて掘り下げられていくのも面白いです。それだけに、今後の進展がますます楽しみだなぁ、とのんびり思ってたらあとがきを読んでびっくり。なんと、本書で本シリーズは一区切りということですorz プラスに考えれば、全6巻という分量は未読の方に紹介する際にオススメしやすいボリュームであるとはいえます。が、正直とても残念だというのが本音です。何かの機会に再開しないかなぁと思いつつ、作者の新シリーズも追っかけてみようと思います。高品質のラノベミステリとして、本書のみならずシリーズ通巻でオススメです。
【関連】
『子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館
『子ひつじは迷わない 回るひつじが2ひき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館
『子ひつじは迷わない 泳ぐひつじが3びき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館
『子ひつじは迷わない うつるひつじが4ひき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館
『子ひつじは迷わない 騒ぐひつじが5ひき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館