大崎梢・久世番子『平台がおまちかね』新書館

本を作る人
本を売る人
そして読む人へ
注文をとるだけじゃなくて 縁をつなぐ仕事
(P38)

大崎梢の小説、『平台がおまちかね』のコミカライズ版です。
大崎梢は以前アイヨシが書評しました、『配達赤ずきん』などの”成風堂書店事件メモ”シリーズを代表作に持つミステリ作家です。
『配達あかずきん』(大崎梢/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)

配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)

自身が元書店員だったこともあり、「書店」を描くことにかけてはお手の物でしょうが、本作はその書店と切っても切れない関係の、「出版社営業」を主人公にした作品です。
「出版社営業・井辻智紀の業務日誌」シリーズ」として東京創元社より『平台がおまちかね』『背表紙は歌う』と刊行されていますが、書店員よりも更にマニアックな職業(笑)、出版社営業ということで、「これまた、面白いところをつくなぁ」と興味を持ちました。
実際のところ、フジモリは『配達赤ずきん』の原作小説もコミックも未読、『平台がおまちかね』の原作も未読という状態でしたが、この作品単品でも十分に楽しめました。
主人公は明林書房の営業マン・井辻*1。行き先の書店員の人々がことごとく口にする先輩の人気営業マン・吉野の存在にコンプレックスを抱きながらも、真摯に営業活動を続けていきます。
そんな彼に降りかかる、「日常の謎」の数々。
マドンナを傷つけた言葉や、絵本の謎、はたまたポップに秘められた暗号など、井辻くんはさまざまな出来事をを経験していきます。
『配達赤ずきん』などと同じく、「日常の謎」を中心とした「書店ミステリ」ですが、前述したとおり、主人公の「出版社営業」というあまりなじみのない職業の説明も相俟って、「普段知らない書店のさらに知らないところ」について知ることが出来ます。
といっても、昨今の出版事情を踏まえたシビアな話はなく、いわゆる「働く人」を中心にすえた物語だといえるでしょう。
日常の謎」というジャンルは、北村薫加納朋子などの先人をはじめ、「ハートフルストーリー」と非常に相性が良いです。
本作も、「謎解き」は物語の軽いスパイスとして、書店員井辻くんと彼を取り巻く人々、そして彼が通う書店との「ほっこりしたお話」が中心で、読んでいてなんとなく安心するような気持ちになれるでしょう。
作画を担当する久世番子もまた、元書店員で、自身の経験をもとにエッセイマンガ『暴れん坊本屋さん』などを描いています。
暴れん坊本屋さん (1) (ウンポコ・エッセイ・コミックス)

暴れん坊本屋さん (1) (ウンポコ・エッセイ・コミックス)

彼女の筆致もまた、ハイテンションな『暴れん坊本屋さん』と打って変わって、あたたかな物語をあたたかく描いており、良い組み合わせだなと思います。
別作品からのコラボも若干あり、この本から”成風堂書店事件メモ”シリーズ、」そして原作へポロロッカしたくなりました。
元書店員の「書店ミステリ」を、元書店員の「書店エッセイ漫画家」がコミカライズするという、本好きにはたまらない組み合わせだと思いますので、興味ある方は是非。

*1:辻の字は点が二つ