私家版2012年国内ミステリ ベスト10

 年始ですので書評サイトらしく一応2012年のベスト国内ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2012年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

奇面館の殺人

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

 綾辻行人”館”シリーズ最新刊。”館”と冠されてはいますが、実際には館に招かれた登場人物がかぶることになる奇妙な仮面にまつわる謎解きがメインなのがシリーズものとして些か物足りないでもないですが、ミステリとしては王道とケレンとのバランスが絶妙の逸品です。

龍神の雨

龍神の雨 (新潮文庫)

龍神の雨 (新潮文庫)

 奔流に押し流されるきょうだいの運命。あたかも川の支流のように、幾多の分岐点=パターンを明示的暗示的に描き出すことで運命の過酷さと一抹の救いとを表現している因果の物語です。
【関連】『龍神の雨』(道尾秀介/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

ラガド 煉獄の教室

ラガド―煉獄の教室 (光文社文庫)

ラガド―煉獄の教室 (光文社文庫)

 第13回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。教室内での犯人や教師・生徒たちの動きの再現を説明するために、なんと93枚(!)もの図版が用いられている珍品です。純粋なミステリというよりも、ホラーやサスペンスの面白さをあえて強調しておきたいです。
【関連】『ラガド 煉獄の教室』(両角長彦/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館

本格ミステリ鑑賞術

本格ミステリ鑑賞術 (キイ・ライブラリー)

本格ミステリ鑑賞術 (キイ・ライブラリー)

 序文にも書かれておりますが、本書は鑑賞の手引きとしてはもとより、発想のきっかけを見出すための実用書としてミステリの可能性を模索する要素も多分に含んでいます。ミステリをよりしなやかに楽しむためにオススメしたい一冊です。
【関連】『本格ミステリ鑑賞術』(福井健太/東京創元社) - 三軒茶屋 別館

矢上教授の午後

矢上教授の午後 (祥伝社文庫)

矢上教授の午後 (祥伝社文庫)

 グランドホテルならぬオンボロ大学研究棟で繰り広げられる群像劇。50章という細かい章立てによる語りと場面の切り替えによって、登場人物の内面や事件の構成要素や多面性を無駄なく描いています。個人的に2012年でもっとも印象に残ったミステリです。
【関連】『矢上教授の午後』(森谷明子/祥伝社文庫) - 三軒茶屋 別館

追想五断章

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

 五つのリドル・ストーリーのつながりによって紡がれる結末を求める物語。リドル・ストーリーの面白さと空虚さとを主人公の人生観になぞらえながら巧みに長編化した手腕は特筆ものです。
【関連】『追想五断章』(米澤穂信/集英社文庫) - 三軒茶屋 別館

子ひつじは迷わない 騒ぐひつじが5ひき

 ラノベミステリの傑作シリーズ。日常と非日常と、ハレとケと、そして生と死と。青春ミステリならではのテーマと既存キャラの再登場と掘り下げと、インスピレーションの疾走とがほろ苦くも心地よい逸品です。
【関連】『子ひつじは迷わない 騒ぐひつじが5ひき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

丸田町ルヴォワール

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)

 双龍会という私的裁判を舞台に行われる謎解き&討論ゲーム。主要人物の一人が麻雀打ちで、もう一人が将棋指しということで、そうしたゲーム的プレイヤーのスタンスによって勝負に対する考え方や価値観の相違点が浮き彫りになっているのが個人的にとても興味深かったです。オススメです。

SOSの猿

SOSの猿 (中公文庫)

SOSの猿 (中公文庫)

 悪魔祓いの技術で知人の息子の引きこもりを治そうとする「私の話」と、20分間で300億円の損失を出した株誤発注事件の原因を探る「猿の話」。二つの話の結節点となるのは孫悟空!? さすがのストーリーテリングです。

名探偵マーニー

名探偵マーニー 1 (少年チャンピオン・コミックス)

名探偵マーニー 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 マーニーというニックネームが示すとおり、主人公の真音(マリオン)は報酬目当てに事件を解決する私立探偵を志向していますが、結果として意外な真相を明らかにする名探偵役を果たしています。シニカルな現実と論理の空想との行ったり来たりが楽しめるミステリ漫画です。

 2012年はあまり本を読めなかったなぁorz 今年はもう少し頑張りたいです……。
【関連】私家版2011年国内ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館