私家版2011年ライトノベル ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2011年のベストライトノベルなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2011年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 10

 ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ。
【関連】『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 10』(入間人間/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館

パニッシュメント

パニッシュメント (ガガガ文庫)

パニッシュメント (ガガガ文庫)

 ポストオウム真理教時代のラノベ新興宗教という社会派的なテーマを扱いつつも恋愛模様やクラス間の微妙なパワーバランスやヒエラルキーなども描かれていて、テーマ性を有しながらも社会派ではなくキャラクタ重視の物語に仕上がっています。江波光則は私的お気に入り作家です。暗めの作品が楽しめる方にはたまらない作風でしょう。『ペイルライダー』もオススメです。
【関連】『パニッシュメント』(江波光則/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館

とある飛空士への恋歌 5

とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

 リアリティとファンタジーのバランスというのが本シリーズのテーマのひとつでした。そうしたジャンル的方向性の問題・世界観の問題が二人の登場人物の関係と決定に巧みに落とし込まれています。現実主義とロマンチシズムとの決着、ともいえるでしょう。王道を堂々と歩むことを描いた見事な結末に感服です。
【関連】『とある飛空士への恋歌 5』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館

アイドライジング!

アイドライジング! (電撃文庫)

アイドライジング! (電撃文庫)

 第17回電撃小説大賞金賞受賞作品です。将棋の話になりますが、ITとネットの進化によって将棋界に起きた変化について、将棋棋士である羽生善治は高速道路に例えました。いわゆる「高速道路論」(【参考】文芸版「高速道路論」 - 三軒茶屋 別館)ですが、それは将棋界に限らずあらゆる分野について広くいえることで、アイドルの世界もまた例外ではないと思います。だからこそ、未来のアイドル像というものを考える上で興味深い作品だと思います。
【関連】『アイドライジング!』(広沢サカキ/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館

子ひつじは迷わない およぐひつじが3びき

 このシリーズは本当にオススメです。ミステリとしてなら2巻第一話がダントツですが、ライトノベルとしてなら3巻を強く押したいです。メサイアコンプレックス自体は当初から描かれる予定のテーマだったはずですが、2巻と3巻の間に起きた出来事により、期せずしてあまりにも重いものとなってしまいました。本書はそうした重さに耐えうるだけの内容となっています。青春の甘さは苦々しさがあってこそです。
【関連】『子ひつじは迷わない 泳ぐひつじが3びき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

七姫物語 第六章 ひとつの理想

 今年のライトノベルのマイベストです。首を長〜くして待ってた七姫物語シリーズ堂々の完結編。欲をいえば、七姫というくらいですから第七章まであったほうが座りがよいと思いますし、あとがきで「もう一冊あれば」とされる物語もとても読みたいです。それでも、確かにこの結末はカラが求める理想としての光景が見事に描かれているのだと思います。いろいろ言いたくなりますが、それでいてこれしかないという結末です。
【関連】『七姫物語 第六章 ひとつの理想』(高野和/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館

奥ノ細道・オブ・ザ・デッド

奥ノ細道・オブ・ザ・デッド (スマッシュ文庫)

奥ノ細道・オブ・ザ・デッド (スマッシュ文庫)

 「古典×サバイバルホラー 誰も見たことがない元禄パンク!!」というオビの謳い文句どおりの内容です。ゾンビと人殺しが跋扈する清々しいまでに腐ったお話です。それでいて「おくの細道」らしく、きちんと俳句を読んでいるのがをかしいです。俳人と廃人による殺し殺されのロードムービー小説です。
【関連】『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』(森晶麿/スマッシュ文庫) - 三軒茶屋 別館

灼熱の小早川さん

灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)

灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)

 友人関係やら恋愛関係やら性の問題やらいじめやら部活動やら勉学やら校則やら進学やらクラス活動やら生徒会活動といったテーマが、こっ恥ずかしい言葉と演技によって語られる「中学生日記」のラノベ版とでもいうべき一冊です。同調圧力や集団浅慮といった集団の嫌な側面と個人(変人)との戦いを観察していたつもりがいつの間にやら矢面に立たされて……といった苦々しい青春の1ページにとってつけたような結末が独特の読後感を醸し出している不思議な作品です。
【関連】『灼熱の小早川さん』(田中ロミオ/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館

サクラダリセット 6

 表面的には能力者によるバトルもののようでありながら、実際は文系SF的方向を志向している本シリーズですが、6巻ではついにそれぞれの裏方的人物の思惑が明らかとなります。これまでの思弁的概念的な伏線が回収されて、ケイの果たすべき役割もまた明らかとなるのですが……それにしても、愛が重すぎます(苦笑)。
【関連】『サクラダリセット 6』(河野裕/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

サンタクロースを見た

 本書は、雑誌「電撃文庫 MAGAZINE 2012年01月号」付録の文庫本です(なので書影も雑誌となっております)。蒼山サグ沖田雅・竹宮ゆゆ子・土橋真二郎志村一矢の5人が、同じ街と同じ24日の夜を舞台に「サンタクロースを見た。」の一文からはじまるそれぞれのクリスマスを描いています。互いの作品が独立しつつもそこはかとなく関連し合うことで素敵なクリスマスを堪能できます。極めてレベルの高いコラボレーションです。
【関連】『サンタクロースを見た』(電撃コラボレーション/電撃MAGAZINE文庫) - 三軒茶屋 別館


 ほとんどのライトノベルには巻末に作者あとがきが付いています。たいていは作者の近況などが書かれたりするわけですが、今年はやはり3.11について触れたあとがきがとても多かったように思います。未曾有の大災害に相対したときに、小説を書くことと読むことの意義について、否応なく考えざるを得ない一年でした。
 個人的なことをいえば、今年は上述のみーまーや飛空士、七姫をはじめ、”文学少女”や嘘つきは姫君のはじまりなど、いろいろ追っかけていたシリーズものがそれぞれに大団円を迎えた一年でした。寂しい反面、気楽になったというのも正直な気持ちです。
 出版不況が叫ばれる昨今ですが、ライトノベルはそのなかにあって好調とされています。講談社が新たに講談社ライトノベル文庫を創設するなど(【参考】http://digital.asahi.com/articles/TKY201111200346.html)新規レーベルの参入も活発で、それだけ作品数も増えることになります。そうなると玉石混交はさらに進むことになります。面白い作品・自分に合った作品を見つけることもそれだけ難しくなるということではありますが、老けることなく好奇心旺盛に手を出していきたいと思います。
【関連】私家版2010年ライトノベル ベスト10 - 三軒茶屋 別館