『フキンシンちゃん』（長嶋有／エデンコミックス）

フキンシンちゃん (エデンコミックス)

フキ子ちゃんが不謹慎だってこと、皆、気づいていない
謎の高校生フキンシンちゃんがハラハラハラハラの大活躍！！
（本書オビより）

　いろいろとツッコミどころの多い本です。芥川賞・大江健三郎賞作家が描いた漫画というだけでも「なにやってんの？」と思ってしまうわけですが、『フキンシンちゃん』というタイトルと着想自体が個人的にかなりツボりました。なので、書店で見かけて即衝動買いしたわけですが、うーん……。この内容で1,200円＋税ではコスパが悪いといわざるを得ません。
　屋上に靴を並べてみたり有名人の命日にやたらと詳しかったりするフキンシンちゃんことフキ子ちゃんのキャラクターが面白くないわけではありませんし、それなりに不謹慎なネタではあります。ですが、今のご時世で不謹慎といったら、「ポポポポーン」とか「セシウムさん」とかいろいろあるわけじゃないですか。そういうのをネタにせずに無難なものに逃げてしまっている感は否めません。せめて絶望先生と同程度には社会や世間と戦って欲しかったです。
　また、本書の絵ですが、はっきり言って下手です。読み始めてすぐに「なんじゃこりゃ？」と思わずにいられませんでしたか、途中でコミPo!で描いたのだということに気づいてからは下手さにも納得です。表紙で気が付けといわれると返す言葉もありませんが（苦笑）。
　コミPo!とは、ＰＣ上で気軽にまったく絵を描かなくても組み立てるようにポッと漫画が作れちゃうソフトのことです。コミPo!を実際に使うとどんな漫画を実際に描くことができるのかという実例として、本書は興味深い一冊だといえます。なお、本書の巻末には長嶋有インタビューとして、コミPo!を使ってみての感想や利点や不満が述べられていたり、さらには小説と漫画の違いといった事柄についていろいろと語られています。
　ただ、コミPo!で作っているという点を割り引いても、本書は読みにくい本だと思います。というのも、会話と内面で思っていることとナレーションと擬音がゴチャゴチャしているのです。思ったような表情や仕草を表現できないため、どうしても文章による説明に頼らざるを得ないという事情は分かるのですが、それにしても、もう少しすっきりさせて欲しかったです。
　ちなみに、不謹慎ギャグ漫画としては、余命１年を宣告された主人公の少女が自らの薄命をネタにギャグを飛ばす『薄命少女』（あらい・まりこ／アクションコミックス）という作品のほうがオススメだったりしますので、興味のある方は是非。

コミPo!