私家版2011年「このマンガがすごい!」ベスト10+3

あけましておめでとうございます。
2012年に突入していろいろと時流を乗り過ごした感がありますが、個人的に2011年を振り返る意味で極私的にフジモリ版「このマンガがすごい!」をつらつらと語っていきたいと思います。
ちなみに私家版です。2011年に1巻が発売された本の中から選ばせていただきましたのであしからず。(順位も付けていません)(←ほぼコピペ)

九井諒子『竜の学校は山の上』

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

 順位はつけないと言いましたがスマンありゃウソだった。
というわけで2011年読んだマンガのなかではベスト1です。
 魔王を倒した「そのあと」の勇者のお話、奥様がケンタウロスなお話、クラスメイトが天使なお話、竜の学校のお話など、さまざまなシチュエーションを日常の地続きに描く、良質な短編集。
 「世界」を構成する地に足ついた地力とほほえましいキャラクタたちを軽やかに描く筆致。エンタテイメントで包みながらも毒を織り交ぜながら重いテーマを根底に流したストーリーテリング
 まさに、次作が読みたくなる2011年最大の収穫でした。
奥様はケンタウロス 九井諒子『竜の学校は山の上』

荒木飛呂彦ジョジョリオン

ジョジョリオン 1 (ジャンプコミックス)

ジョジョリオン 1 (ジャンプコミックス)

 本来であれば新人枠をたくさん取りたいのですが、こればかりはしょうがないです。(←?)
 一周まわった?杜王町を舞台にした新たな「JOJO」。
 連載では1巻のエピソードを終え新たなエピソードを迎えていますが、謎は増していくばかり。
 3.11という「試練」を新たなJOJOたちが、そしてこの「ジョジョリオン」という作品がいかに乗り越えていくか。 ・・・といった堅苦しいことは一切考えず、新たなJOJOを甘受できる幸せと新たな「奇妙」を満喫できる幸せを噛み締めたいと思います。

冲方丁・槇えびし『天地明察

天地明察(1) (アフタヌーンKC)

天地明察(1) (アフタヌーンKC)

 冲方丁の『天地明察』のコミカライズです。
 江戸時代前期の囲碁棋士で天文暦学者の渋川春海の生涯を描く時代小説なのですが、もともとラノベ畑だけあって冲方丁の原作はコミカライズと非常に相性がよいと思います。
 フジモリは原作は未読なのですが、それぞれの登場人物が魅力的で、まさに「続きが読みたくなる」面白さ。
 原作を未読なひとも既読なひとも楽しめる良いマンガです。

鎌谷悠希『少年ノート』

少年ノート(1) (モーニング KC)

少年ノート(1) (モーニング KC)

 ピュアなボーイソプラノの少年を軸とした合唱漫画。
 「歌」「音」「合唱」を意識して描きわけているように感じられ、好感が持てます。
 合唱漫画でもあり、合唱「部」漫画でもある群像劇が心地よかったです。
 やがて消えうせていくラストに向かい、どのように物語が紡がれるか、儚さと危うさが入り混じる美しいお話です。
やがて消えうせてゆく、儚くも美しい日々。 鎌谷悠希『少年ノート』

石黒正数『外天楼』

外天楼 (KCデラックス)

外天楼 (KCデラックス)

 外天楼と呼ばれる建物にまつわる連作短編集です。
 エロ本を探す少年、宇宙刑事、ロボット、殺人事件・・・。
 コメディタッチで始まったかと思ったら、星新一風のSFあり、ミステリありとごった煮になり、それらがすべて一つにつながる。この作者だからこそ生み出せた怪作・快作。
 アイヨシも「私家版2011年国内ミステリ ベスト10」に入れていましたが、ミステリともSFともつかない、まさに「外天楼」のような捩れ入り組んだ作品だと思います。

はるな檸檬ZUCCA×ZUCA』

ZUCCA×ZUCA(1) (KCデラックス モーニング)

ZUCCA×ZUCA(1) (KCデラックス モーニング)

 ヅカオタ(宝塚オタク)たちの日常を描くショートコミックです。
 宝塚という自分と全く異なるフィールドのお話なのに、なぜか親近感が湧いてしまう。オタクの根っこは万国共通。
 決して自身ではありえないことなのに「あるある」と頷いてしまうなんとも面白い「あるある」を楽しめました。
オタクとは業の深き生き物なり。 はるな檸檬『ZUCCA×ZUCA(ヅッカヅカ)』

南Q太『ひらけ駒!』

ひらけ駒!(1) (モーニング KC)

ひらけ駒!(1) (モーニング KC)

 将棋に夢中な小学四年生、宝と、将棋にミーハーな宝の母の二人の日常を描く新しい「将棋マンガ」。
 将棋という「戦い」を描く将棋マンガとは180度違う、将棋という「文化」を描く漫画。
 このマンガにより「将棋マンガ」のカテゴリーが一つ広がった気がしますし、将棋の新たな魅力をたくさんの人に伝えてほしいなぁ、と思います。
「親目線」で楽しむ新しい「将棋漫画」、南Q太『ひらけ駒!』

雲田はるこ昭和元禄落語心中

昭和元禄落語心中(1) (KCx)

昭和元禄落語心中(1) (KCx)

 完全に「このマンガがすごい!2012」の後追いで恐縮なのですが、面白かったです。
 刑務所上がりの通称「与太郎」が、稀代の噺家・八雲師匠に弟子入りし・・・という「落語」を舞台とした人情劇です。
 二人の関係性を軸に、登場人物たちの「人」と「情」が巧みに交わる、まさに落語のような軽妙でしんみりとする漫画です。

速水螺旋人大砲とスタンプ

大砲とスタンプ(1) (モーニング KC)

大砲とスタンプ(1) (モーニング KC)

 年末駆け込みで1巻が間に合いましたこの作品もベスト10入り。
 同作者の『靴ずれ戦線』と悩みましたが、シンプルなこちらをチョイス。
 架空の戦場を舞台に、後方支援が任務の「兵站軍」に所属されたメガネっ子軍人マルチナ・M・マヤコフスカヤ少尉を主人公としたお話。
 「ミリタリー法螺マンガ」と称されるに相応しい、「世界」がきちんと構築されている良質な架空軍事薀蓄コメディーマンガです。
 ジャンルは異なるが、『攻殻機動隊』を初めて読んだ衝撃に似た印象を受けました。
 こういう、「世界」がきっちりと構築されているマンガ、先生、大好物ですよ(←??)。

荒川弘銀の匙

銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)

銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)

 こんなメジャーな本をベスト10に入れてよいのかという葛藤もありましたが、ヒネた批評家ぶる気もないので素直にランクイン。
 『鋼の錬金術師』の作者が描く、北海道の農業高校を舞台とした「農」をテーマにした青春物語です。
 「農」や「命」といった重いテーマを内包しているにもかかわらず、エンターテイメントの味付けでさらりと読者に読ませる手腕は小説家・有川浩を彷彿とさせます。
 「ハガレン」で培ったギャグとシリアスの絶妙なバランスはこの作品にも引き継がれています。間違いなくこの作品も作者の代表作となることでしょう。

 以上が「2011年に1巻が発売された」マンガのベスト10ですが、個人的に「このマンガがすごかった!2011」ベスト3を。

末次由紀ちはやふる』15巻

ちはやふる(15) (BE LOVE KC)

ちはやふる(15) (BE LOVE KC)

 「かるた」という競技を熱く美しく描くこのマンガ、15巻の決勝戦で最高潮を迎えました。
 読みながら心の奥底が熱くなる展開、そして最後の一瞬に向けて積み重ねてきたものが「一つ」になる美しい流れ。
 ジャンルは全く異なりますが、「マルドゥック・スクランブル」のカジノの一戦を髣髴とさせました。
 心の内からこみ上げる熱さが「感動」に変わる。まさに「奇跡」の巻だったと思います。

荒木飛呂彦STEEL BALL RUN』24巻

STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン 24 (ジャンプコミックス)

STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン 24 (ジャンプコミックス)

 ジョジョに始まりジョジョに終る、というより、順番的に言うとジョジョが終ってジョジョが始まる2011年でしたが、この作品はまさに「作者とともに駆け抜けた」一作だと思います。
 実際、第7部を読んでいないジョジョラーも多く賛否両論ある「2周目のJOJO」ですが、個人的には楽しめました。
 『STEEL BALL RUN』については今年改めてじっくり語りたいなぁ、と思います。

平野耕太ドリフターズ』2巻

ドリフターズ 2 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 2 (ヤングキングコミックス)

 最高。一言で言うと「ヒラコー作:スーパー世界史対戦in中つ国」です。
 登場人物たちの関係性の変化が生むドラマと弱兵を率いる戦の醍醐味、そして能力バトルとこれでもかと濃密な内容だが、シリアスとコミカルの絶妙な緩急で一気に読ませます。
 1巻でお披露目したキャラクタたちが2巻になり一気にうねりをもって動き出した感じ。
 広大な物語ですが、とにかく完結してほしいです。
『ドリフターズ』に感じる「ワクワク感」


 ベスト3以外にも、あずまきよひこよつばと!』や冨樫義博HUNTER×HUNTER』、羽海野チカ3月のライオン』など既刊シリーズで存在感を見せるマンガが多々ありました。
 2011年という年は、3.11を経て、発信者側も受信者側もマンガという「フィクション」に対し発し方、受け方が大きく変化した1年だったと思います。
 しかし、だからこそ「娯楽」として漫画を楽しむという日常を与えるために、作者はあえて「描き続け」ました。

 毎度毎度同じことを喋っていますが、当分は人前に出る機会や取材の機会があったら同じことを何度でも喋ります。
 自粛は被災地を救わない。
 しつこいよって言われるくらい何度でも言う。
 気持ちがふさいでしまうことは仕方ない、でも前向きな取り組みに対して「不謹慎だ」と他人を攻撃することはそれこそが復興を最も邪魔しています。
 私は知るのがちょっと遅かったのですが、テレビ東京のアニメの再開に不謹慎だという苦情が来た、というのは本当に残念な話です。
 雰囲気を少しでも日常に戻そうとする取り組みだったのに違いないのに。
 もしかするとこれからしばらく、「いいな」と思った取り組みには積極的に応援する意見を送ることが必要な世の中になるかもしれないな、と思います。
 満足している人より不満を持った人のほうが声を上げることに積極的だというのはマーケティングなどでもよく言われることですが、満足していることにもちゃんと声を出さないと、いろんな前向きな取り組みが力尽きてしまうかもしれません。
 被災地の人がいずれ戻りたいと思っている日常は、「自粛」と「不謹慎」という言葉でがんじがらめになった窮屈な日常ではないはずです。
有川浩blog「有川日記」より

 2012年は、「読み手」として少しでも感謝と応援が発信できる1年になればと思っています。
 2012年も読み手の皆様に新たな本との出会いと新たな発見がありますように。