物語世界を満喫できる傑作・再び ひらりん『のろい屋姉妹 ヨヨとネネ 上』

のろいや姉妹 ヨヨとネネ 上 (リュウコミックス)

のろいや姉妹 ヨヨとネネ 上 (リュウコミックス)

 以前フジモリがプチ書評で取り上げ、「1巻100撰。 フジモリ@三軒茶屋の場合」など過去に書いた記事でも絶賛しておりました、ひらりん『のろい屋しまい』の前日譚にあたる物語が刊行されました。
 『のろい屋姉妹 ヨヨとネネ』は、前作『のろい屋しまい』(以下:『のろい屋しまい』オリジナル)の主人公である「のろい屋」のヨヨさんとネネさんの子ども時代から『のろい屋しまい』オリジナルにいたるまでの二人の成長と絆を描いています。
 見た目幼女。でも33歳で世界を滅ぼすと予言された絵本級大魔法使いのヨヨさん。見た目(どおり)大人の女性。体質的に魔力は少ないが努力で最優秀お手本級魔法使いになったネネさん。この二人が森の中で開いている魔法のお店「のろい屋」を中心としたドタバタコメディが『のろい屋しまい』オリジナルの内容ですが、オリジナルでも仄めかされていた、ヨヨさんが姉なのに幼女な理由や、オリジナルに登場する人物たちの若いころが描かれています。
*1
 『のろい屋しまい』オリジナルの書評で、

 そして、特筆すべきは世界設定の緻密さ。1巻完結でありながら、舞台となる世界の地図や歴史、登場人物の家計図はもちろんのこと、主人公である二人の魔女の階級や魔法の概念など、それだけでRPGが1本作れるほどの設定が盛り込まれています。巻末の作者フォローでは作中に登場している小道具についての説明なども書かれており、全てのコマの全てのものに意味があるのでは?と思わせるほど練りこまれた世界観です。

 と書きましたが、この本でもまた同じ感想を受けました。
 「第3次剣魔大戦」という魔の国と剣の国の戦争と和解、登場する様々な職業や種族。以前は「それだけでRPGが1本できる」と書きましたが、むしろ「この世界でTRPGを遊びたい」と思わせるほどの豊かな世界が構築されています。
 速水螺旋人『大砲とスタンプ』などもそうでしたが、「練りこまれた世界の上に物語が存在する」というお話は読んでいてワクワクすると同時に安心します。本書もまた、創りこまれた世界観の上にヨヨとネネと姉妹を取り囲む家族や魔女たちのコミカルな日常があり、まさに「物語を読んでいる感」も満喫できると思います。
 しっかりとした世界観やキャラ設定により物語が紡がれているため、「前日譚」にありがちな「オリジナルと矛盾するキャラ設定や設定の破綻」という「前日譚なのにあとづけ」はもちろん存在しません。むしろ、「なるほど、過去にこういうことがあったからオリジナルではこんなキャラだったんだな」などとオリジナルと本作を何度も往復して読んでしまいました。
 本書は上巻であり、まだ6年前の二人。ここからどのような出来事が二人を待ち受けているか、ワクワクしながら下巻を待ちたいと思います。
物語世界を満喫できる傑作 ひらりん『のろい屋しまい』

のろい屋しまい (リュウコミックススペシャル)

のろい屋しまい (リュウコミックススペシャル)

*1:『のろい屋しまい』P27