私家版2012年「このマンガがすごい!」ベスト10

 暮れも押し迫りまして、各地で2012年を様々な形で振り返っています。というわけで今年は時流に乗り遅れないよう年明け前に、極私的にフジモリ版「このマンガがすごい!2012」をつらつらと語っていきたいと思います。
 ちなみに私家版です。2012年に1巻が発売された本の中から選ばせていただきましたのであしからず。(順位も付けていません)(←ほぼコピペ)

九井諒子竜のかわいい七つの子

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)

昨年(2011年)のベスト1作品、『竜の学校は山の上』に続き、今年もフジモリ的にはベスト1作品です。
親と子、地元、家族など「切っても切れない」、「切りたくても切れない」絆というやっかいな存在を「非日常」の世界で軽やかに描く素敵な短編集。
出版が10月だったため各誌の賞レースなどからは漏れていますが、もっともっともっと評価されてもよい作者/作品。今後も年1ペースで作品を出してくれるとうれしいなぁ。
プチ書評 九井諒子『竜のかわいい七つの子』エンターブレイン

押切蓮介ハイスコアガール

「ハイスコア」を聞くと「ゾンビハンター」とつなげたくなるファミコン世代のフジモリです。MSX世代も兼ねてます。
本作、『ハイスコアガール』は少年時代を(初代)ファミコンとともに過ごしたナナロク世代にクリティカルヒットする作品。
「ゲーム好き女子」という童貞オタク少年の妄想を具現化した、まさに「ファンタジー」な物語ですが、読者のノスタルジィをこれでもかこれでもかと刺激する、「この作品がわかる人とは朝までおいしい酒が飲める」一冊です。
このマンガが好きな人とは美味い酒が飲めそうだ。 押切蓮介『ハイスコアガール』

甲斐谷忍『ウイナーズサークルへようこそ』

ウイナーズサークルへようこそ 1 (ヤングジャンプコミックス)

ウイナーズサークルへようこそ 1 (ヤングジャンプコミックス)

競馬クラスタとしてはこのマンガが欠かせません。
『ONE OUT』『ライアーゲーム』などギャンブルや心理戦を描くのが巧みな作者による競馬マンガ。
これまでの競馬マンガといえば、レースを中心とした「競争馬」や「騎手」を描くものがほとんどだっただけに、「ギャンブル」という意味での「競馬」を題材とするのは新鮮です。作者が名馬好きということもあり、「ギャンブル」だけでなく「ブラッドスポーツというロマン」という側面をきっちり描いているところも好感がもてます。
まあ、実際の馬券購入には活かせないんですけどね!(逆ギレ)
プチ「馬券師」たちの漫画。 甲斐谷忍『ウイナーズサークルへようこそ』

カレー沢薫『アンモラル・カスタマイズZ』

アンモラル・カスタマイズZ

アンモラル・カスタマイズZ

さよなら絶望先生』が終了し、こういう「いろんな方面に喧嘩を売っている」作品を見かけなくなりましたので、他の作品を押し退けてベスト10に無理矢理ねじ込んでみました(笑)。
作者の底なしのネガティブさに裏付けられたセンスのある「毒」は、クセがありますがクセになります。
痛快な毒々しさ カレー沢薫『アンモラル・カスタマイズZ』

みずしな孝之いとしのムーコ

いとしのムーコ(1) (イブニングKC)

いとしのムーコ(1) (イブニングKC)

今年のベストテンで打線を組んでみたらまさしく「5番サード」ぐらいの安定感を持つ作品。
基本的に柴犬ムーコとガラス職人こまつさんの日常を描くだけのマンガなのですが、ムーコの適度なバカさ加減が非常に愛らしい。犬を飼っている人ならメロメロになること請け合いの一冊です。
プチ書評 みずしな孝之『いとしのムーコ』講談社

道満清明『ニッケルオデオン』

ニッケルオデオン 赤 (IKKI COMIX)

ニッケルオデオン 赤 (IKKI COMIX)

エロスとタナトスが同居する、珠玉の短編集。
日常と少しズレた世界で繰り広げられる、日常と少し(かなり?)ズレた人々のお話。
書評でも書きましたが、星新一ショートショート、あるいは藤子不二雄のSF短編を読んでいるかのようなクオリティです。
プチ書評 道満晴明 『ニッケルオデオン 赤』 IKKICOMIX

大須賀めぐみ『VANILLA FICTION』

VANILLA FICTION 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

VANILLA FICTION 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)

年末ぎりぎりで滑り込みましたが、賞レースでは来年にカウントされる場合も多いのでこういう場でこそピックアップすべきだとあえて順位を繰り上げました。
長編マンガというのは打ち切りとの戦いでもあり、尻つぼみになるリスクと紙一重ですので1巻の時点でプッシュすることはなかなか難しいのですが、「先が読めない」スリリングさと、仄かに流れる「伊坂幸太郎イズム」を評価してベスト10入りさせました。
このテンションがどうなっていくのか、非常に楽しみです。(小並感)

穂積『式の前日』

式の前日 (フラワーコミックス)

式の前日 (フラワーコミックス)

こちらは各誌でも注目されている話題の新人・穂積による短編集。
さまざまな「二人」を描く6編の短編集ですが、書評でも描いたとおりミステリ作家「加納朋子」を彷彿とさせます。昔、フジモリの書評で「加納朋子の半分は優しさでできている」*1と称しましたが、この作品にも同様の雰囲気を感じ取りました。
プチ書評 穂積『式の前日』小学館フラワーコミックス

黒咲練導放課後プレイR』

すみません、かなり個人的趣味が入っています(笑)。
ゲーマーカップルのイチャイチャを描く4コマ『放課後プレイ』の番外編で、なんとこれまでのキャラが一堂に会してTRPG(しかもオリジナル!)をやるというまさに俺得以上でも以下でもない4コママンガ。
この「わかる人だけついてこい」というトガリっぷりが最高です。
「放課後プレイ」+「TRPG」=「俺得の極み」 黒咲練導『放課後プレイR』

ひらりん『のろい屋姉妹 ヨヨとネネ』

のろいや姉妹 ヨヨとネネ 上 (リュウコミックス)

のろいや姉妹 ヨヨとネネ 上 (リュウコミックス)

なんと映画化されてしまうとのこと。びっくりです。
本作はフジモリが絶賛した『のろいや姉妹』の前日譚にあたります。
「歴史」という縦軸と「世界(国々、文化)」という横軸それぞれにしっかりと構築された「設定」があり、またその世界の中でキャラクタたちが重なりあうことでしっかりと「物語」が生まれています。
まさに、「物語、かくあるべし」という作品です。
物語世界を満喫できる傑作・再び ひらりん『のろい屋姉妹 ヨヨとネネ 上』


今年はマンガが豊作すぎて、ベスト10を絞り込むのにだいぶ苦労しました。
森繁拓真『いいなりゴハン』、とよ田みのるタケヲちゃん物怪録』、森薫森薫拾遺集』、亀井薄雪『桃栗三年』、水上悟志スピリットサークル』、高畠エナガ『Latin』などなど、ベスト20でも30でも挙げれそうなほど良作が多く、個人的にも大満足な一年でした。
一方で、惜しまれつつ大団円を迎えたマンガも多かったです。『さよなら絶望先生』『バクマン。*2など、当blogでもおなじみの作品たちが見事に風呂敷をたたみきりました。
また、既存の作品、『ジョジョリオン』『ちはやふる』『3月のライオン』なども「え?さらに伸び代があるの??」というぐらい、昨年よりも更に更に盛り上がっていました。
昨年の大震災を経て、「描き手」もまた「描き続けよう」とする強い「意志」と「エネルギー」を作品に込めているかのような印象を受けました。
来年もまた、「読み手」として少しでも感謝と応援が発信できる1年になればと思っています。
2013年も読み手の皆様に新たな本との出会いと新たな発見がありますように。

*1:現在、諸事情によりページがつぶれている「三軒茶屋 本館」にて発言してました。

*2:えーっと、残りのプチ書評3巻分、忘れてるわけではないですヨ。年末年始のうちにアップしたいなぁ・・・。