[ウソ書評]まさに驚愕の展開! 谷川流『涼宮ハルヒの驚愕』

2年の歳月を経てようやく刊行されました『涼宮ハルヒの驚愕』。時間をかけただけあり、これまでの谷川シリーズの集大成とも言える作品になっていました。
『涼宮ハルヒの驚愕』には驚愕できるポイントが3つある」とのことですが、確かに大きく分けて「3つ」の驚愕ポイントが発生しています。

あらすじ

物語は前作『涼宮ハルヒの分裂』でαパート、βパートと分裂した続きから始まります。
SOS団全てが揃っている「普通」をαルートとすると、長門が謎の欠席をしているβルート。しかしながら、どちらのルートも「同じ結末に」収束します。物語を分裂させた「彼女」は、更なるルートに物語を「分裂」させるが。。。というのがおおまかなあらすじです。

驚愕その1「物語の分裂」

驚愕ポイントその1ですが、前作『涼宮ハルヒの分裂』で2ルートに分かれた物語を、今度はγルート、δルートとさらにさらに分裂していきます。αルートをSOS団全てが揃った王道ルートとすると、βルートは長門が攻撃を受けているルート、γルートはみくるが攻撃を受けているルート、と総当り思考実験を繰り返しているかのような物語になります。さらには、「長門が存在しない」ルート、「みくるが存在しない」ルート、はたまた「古泉が女性だった」ルート、etcetc・・・。おおまかなキャラ設定、ストーリーはそのままに、一部を改変するだけで物語を変えるあたりは、森見登美彦の『四畳半神話大系』を思い起こさせます。
読みながら、「これって、作中作というより作中「二次創作」じゃん」と思ったのですが、あにはからんや、というかそれを上回る展開に。
作中で、「物語」を分裂させた人物(←未読の方向けに名前は伏せます)がこう語ります。

「思考実験?・・・そうかもしれません。
 そうね。私はあなたたちの「物語」をいくつもいくつも分裂させていった。別の物語ではあなた(フジモリ註:キョンのことです)が女性になり、また別の物語ではあなた(フジモリ註:長門のことです)がゲーマーだったり」(P182)

ここでキョン子ハルヒちゃんネタ!?
つまり、世の中の「二次創作」そのものが「分裂した物語」だと語っているのです。これで、前作から2年もあいた理由がしっくりきました。間を空け、二次創作を増やし、物語の「分裂」「拡散」という言葉にリアリティを持たせるために現実世界とリンクさせたのです。この巧みな構成には舌を巻くばかりです。
作中で二次創作について言及している小説、というのは過去にあるかもしれませんが、現実世界に流通している二次創作を分裂した物語と位置づけるというのはお見事だと思いました。まさに驚愕です。

驚愕その2『学校を出よう!』とのリンク

物語を分裂させたキャラの登場で、メタな視点が発生した本作。「メタ」といえば同作者の『学校を出よう!』だなぁ、と思いましたが、まさに「谷川ワールド」ともいうべき作品リンクが発生。

「名前?別の世界では”インターセプタ”って呼ばれているわ(P261)

インターセプタキタ−−−−−−−−−−!
物語上に「メタ」という上位世界を存在させた『学校を出よう!』。
この作品についてはフジモリ、アイヨシともにいろいろと語っているのでそちらを参照していただきたいのですが、
西尾維新『戯言シリーズ』と谷川流『学校を出よう!シリーズ』を対比させてメタについて考察してみました。 - 三軒茶屋 別館
『学校を出よう!』シリーズとP・K・ディック作品の関連性についての私論 - 三軒茶屋 別館
遂に「涼宮ハルヒ」シリーズにも登場。「if」の世界がなぜ存在するのか、どうやって存在させたのかについての説明は『学校を出よう!』を読んだ方なら非常に納得できるものではないかと思います。また、彼女から宮野秀策の名前が来たときには思わずニヤニヤしてしまいましたよ。

驚愕その3「驚愕の結末」

どんなに物語を分裂させても「同じ結末」に収束してしまう。
その事実を苦々しく思っているSOS団に敵対するグループでしたが、その原因が「セカイを改変する」力のある涼宮ハルヒにあるのではなく、「セカイを日常に収束させる」キョンにこそあるのだ、という結論に至ります。
そういう意味では、

「保証します、あなたは特別何の力も持たない普通の人間です」
(『涼宮ハルヒの憂鬱』P169)

という古泉の発言がやはり伏線だったわけです。
確かにキョンは「普通」でしたが、逆に言うとこれだけトンデモ人間が出てくる中で物語を「普通」という「日常」に収束させると言う特殊能力を持っているわけです。
こういう、「普通なことが特別」という設定は奈須きのこ空の境界』を彷彿とさせますね。
そして、「彼ら」は遂に一つの結論に至ります。
「もし、キョンのいない「物語」があれば・・・」
ギリシャ文字で「最後」を示すω。そのωルートでは、ハルヒの独白から始まります。
涼宮ハルヒの憂鬱』と同じストーリーですが、その世界にキョンはいません。「物語を日常に収束させる」キャラが存在しなくなったのです。
この巻はここで終了。続きが強烈に気になる「引き」で、最終巻『涼宮ハルヒの日常』に続きます。

感想

学校を出よう!』で読者をメタ世界に慣らし、世に溢れている二次創作を逆手に取った展開。そして『涼宮ハルヒの消失』の逆バージョンと言える展開での次巻への引き。
2年待った甲斐があるなぁ、と感慨にふけりながら楽しむことができた一方で、続きが非常に気になる一冊でした。最終巻の刊行時期は未定とのことですが、焦らさず早く出してほしいなぁ、と切に思います。
・・・というわけで恒例のコレを。

あーほんと、早く出ないかなぁ!!!