物語世界を満喫できる傑作 ひらりん『のろい屋しまい』

のろい屋しまい (リュウコミックススペシャル)

のろい屋しまい (リュウコミックススペシャル)

 帯で西島大介鶴田謙二が推薦していますが、推薦に違わぬ傑作でした。
 内容は、魔法使いのヨヨさんとネネさんがひらいている「のろい屋」を舞台にしたほのぼのドラマ。
 まず、この作品が初めてのオリジナル作品、ということですが、本当?と疑いたくなるぐらい絵が綺麗です。本を開くと最初に「ゴチャゴチャしてるので普通のマンガよりゆっくり読んで下さい」と注意書きがありますが、確かに、1コマあたりの情報量が多いです。逆に言うと、1コマ1コマ眺めるだけでも飽きません。また、線が柔らかく、書き込まれていながらもゴチャゴチャしている印象を受けません。幼女はかわいらしく、大人の女性は色っぽくと当たり前ながらもしっかりと描き分けられています。
 そして、特筆すべきは世界設定の緻密さ。1巻完結でありながら、舞台となる世界の地図や歴史、登場人物の家計図はもちろんのこと、主人公である二人の魔女の階級や魔法の概念など、それだけでRPGが1本作れるほどの設定が盛り込まれています。巻末の作者フォローでは作中に登場している小道具についての説明なども書かれており、全てのコマの全てのものに意味があるのでは?と思わせるほど練りこまれた世界観です。
 ストーリィそのものは、「のろい屋」を中心としたほのぼのコメディなのですが、最初は登場人物の位置づけもわからず「??」となりながら読み進んでいくと思います。次第に設定が明らかになるにつれ、「ああ、このキャラはそういうことだったのか」など読み返したくなります。各話が少ないページ数なので若干駆け足で進む話もありますが、「花卓の騎士」*1などクスっとさせるパロディもあり、まさに「物語」を満喫できるかと思います。
 物語に使われない舞台設定や世界観というのは、鰹節をたっぷり使った出汁のように見えないながらも物語を濃厚にします。そういった「世界」を味わいたい人、満喫したい人は必ずや満足できる一冊だと思います。ここ最近で買ったマンガの中ではベストに位置する本でした。オススメです。

*1:アーサーガ王や蘭スロットなど