過ぎ去りし学園生活を詰めこんだ「極上の」真空パック 『委員長お手をどうぞ』

委員長お手をどうぞ(完全版)

委員長お手をどうぞ(完全版)

 ふと手に取った一冊がこの上もなくおもしろかった場合の何とも言えない至上の喜びを味わうことは、マンガ読みならず本読みならば誰しも味わったことのある「これがあるからやめられない」な一瞬だと思います。
 山名沢湖委員長お手をどうぞ』はまさにそんな一冊で、「こんなすばらしい漫画に出会えてよかった」という喜びと「なんでこの漫画を今まで知らなかったのだろう」という悔しさを同時に味わいました。
 本作は、メガネで三つ編みでという典型的な「委員長顔」から学級委員長に任命された少女のお話「委員長お手をどうぞ」という表題作をはじめ、学校のさまざまな「委員長」を主人公とした連作短編集です。

 それぞれの「委員長」という「役職」にふさわしかったりふさわしくなかったりする「委員長」たちが、ときに悩み、ときに委員長を楽しみ、そしてほのかな恋が芽生えたり芽生えなかったりするという、読んでいて思わずニヤニヤしてしまう短編がこれでもかこれでもかと詰め込まれています。
 こういう「学園もの」を読むと普段は「あーちくしょー、オレもこんな学園生活送りたかったなー!」と鬱々とした怒りが湧いてくるのですが、この本に限ってはなぜか全くそういう気持ちが起こりませんでした。

 それは「委員長」という登場人物一人一人の物語を描きながらも、さまざまな「委員長」という物語を描くことで一人一人の物語が集合体となり、「学園生活」そのものを俯瞰的に魅せてくれるからなのでは、などとも思います。
 「委員長」という役職は任命された本人にとっては重要で、「自分しかいない」特別な役職ですが、そのような役職を持った人が学校には何人も何十人もいます。

クラスの数だけの学級委員長
この学校だけで 一体 何人の 委員長がいるんだろう
この空の下に何千何万の委員長−−?
(P346)

 自分という枠を俯瞰し、学校という枠を俯瞰することで学生は学校という一つの閉ざされた世界の外の世界を意識し、まさに名実ともに学校から「卒業」します。
 読んでいて胸がキュンキュンほっこりするとともに、読後にはあたかも自分が卒業したかのような「寂しさ」を感じたりもしました。
 「完全版」とあるとおり、本作は2005年に2巻で刊行された作品を一冊にまとめたもので、「過ぎ去りし高校生活を真空パックした」感がでてこれまた素敵だなと思いました。
 フジモリの私的ベスト3は、祭りの前の熱狂と祭りの後の寂しさが見事に詰め込まれている「あとのまつりの文化祭実行委員長」、出てくる委員長のなかでいちばん好みの(笑)「風紀委員長と不思議の国」、今ある一瞬を大切にしようと思わせる「卒業アルバム委員長の窓」です。
 後日譚でありボーナストラックでもある「委員長同窓会をどうぞ」を含めた構成がすばらしく、「1巻完結漫画」としてフジモリの中でトップ5に入る作品。
 多くの人に読んでほしい、オススメの一冊です。