山白朝子『死者のための音楽』MF文庫

死者のための音楽 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

死者のための音楽 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

 乙一が山白朝子名義で怪談専門誌『幽』に書き下ろした7編の「怪談短編集」です。
 いろいろとごたごたがあったそうで一時期「乙一」名義での執筆活動を休止していた乙一*1中田永一」「山白朝子」という二つの筆名でいくつか作品を書いていましたが、読者の方も「あれ?これ乙一じゃね?」などと思われた方が多かったと思います。フジモリもその一人です。*2
 中田永一名義の作品は『百瀬、こっちを向いて』など「せつなさ」を散りばめたいわゆる「白乙一」作品であり、今回読んだ山白朝子名義の作品はどちらかというと「黒乙一」よりの作品だと思います。
 生まれたときから経を知っている子どもとその母のお話<<長いたびのはじまり>>、井戸の底に住んでいる謎の美女のお話<<井戸を下りる>>、触れたものが黄金になる廃液を垂れ流す工場とそれを発見してしまった母子のお話<<黄金工場>>、仏像を彫りたいと弟子入り志願する殺人者の少女のお話<<未完の像>>、「鬼」にまつわる一家三代の語り<<鬼物語>>、少女と少女の望みをかなえてくれる大鳥のお話<鳥とファフロッキーズ現象について>>、まさしくタイトルどおりのお話<<死者のための音楽>>の全7編。
 そのいずれもが、読んだあとに「ふっ」と背中が冷える「怖さ」を秘めています。
 民話調の作品あり、現代風の作品ありと内容は様々ですが、乙一が持つ「絶妙な距離感」は健在です。
 直接的な怖さではなく、雰囲気で怖さを感じさせるところなどはまさに「怪談」そのものですし、「現象」そのものではなくその現象にまつわる「人の情やサガ」が怖い、というのも含めて「怪談」だといえるでしょう。
 個人的には『暗黒童話』や『ZOO』のような黒乙一全開の作品も読みたいと思いますが、名義を変えることで新たな乙一らしさが出ていると思います。怖いお話が苦手な人にもオススメできる一作です。
暗黒童話 (集英社文庫)

暗黒童話 (集英社文庫)