ジョジョラー目線で読む 初野晴『1/2の騎士』

1/2の騎士 (講談社文庫)

1/2の騎士 (講談社文庫)

初野晴『1/2の騎士』読了しました。
内容については以前アイヨシが書評していましたので詳細は割愛しますが、なんというか、ジョジョラー目線で読んでしまったお話でした。
『1/2の騎士』はこんな小説です。

“幸運のさる”を見つけた中学生が次々と姿を消し、盲導犬は飼い主の前で無残に殺されていくーー。
狂気の犯罪者が街に忍び寄る中、アーチェリー部主将の女子高生・マドカが不思議な邂逅を遂げたのは、この世界で最も無力な騎士だった。
瑞々しい青春と社会派要素がブレンドされた、ファンタジックミステリー。
Amazonあらすじより

アイヨシの書評は以下に。
『1/2の騎士 harujion』(初野晴/講談社ノベルス) - 三軒茶屋 別館
フジモリだけではなく、『1/2の騎士』と荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』第4部との親和性については、各所で語られています。

そして、現代ミステリー小説に大きな影響を与えたコミック、荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)のことも。特に第4部。
(文庫版解説、P681より)

作中にさまざまなシグナルが発されているが(例えば「少数派はお互いに引き寄せられ、潰しあう運命にあるんだ」という表現)、本作は荒木飛呂彦の大河漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部、いわゆる杜王町編と強力な競合関係にある。
初野晴『漆黒の王子』解説、P615より)

読んだ人はこの作品が「ジョジョの遺伝子」を持っていることに気づくかと思いますが、ここはあえてジョジョラー目線で第4部を振り返りながら『1/2の騎士』についてつらつら述べていきたいと思います。

舞台および主人公

『1/2の騎士』の舞台は東北のとある地方都市です。
一方、ジョジョ4部の舞台も東北にある地方都市・杜王町
これだけの符合で、『1/2の騎士』の舞台が杜王町に思えてくるからジョジョラーはやっかいです(笑)。
そして、『1/2の騎士』の主人公・マドカは喘息もちでレズビアンという、社会でいうところの「マイノリティ」。この「マイノリティ」というキーワードは『1/2の騎士』、あるいは初野晴作品に通底するのですが、ともあれ、この主人公・マドカが「女装する幽霊」サファイアと出会ったところから物語は始まります。「幽霊」を「スタンド」に読み変えるほど我田引ジョジョしてませんが、「特殊な能力をもって敵と戦う」ところは共通するところがあります。
そしてまた、マドカの父親は警察官です。ジョジョ4部の主人公・東方仗助の祖父もまた警察官でした。
*1
これは、偶然の符合ではなく、身内に「この町を守る」意志を持った人間がいること、それが主人公たちが「この町を守る」原動力になっているのだと思います。

敵との戦い

『1/2の騎士』では、主人公の町に次々現れる異常犯罪者から主人公たちが「町を守る」物語です。
杜王町と『1/2の騎士』の舞台の町の共通点は、どちらも行方不明者がふつうの都市よりも多いこと。
*2
『1/2の騎士』ではそんな「異常な」都市に、「ドッグキラー」「インベンション」「ラフレシア」「グレイマン」といった通称が付けられている異常犯罪者たちが、まるで吸い寄せられるかのように現れます。
彼らの名前である「記号」は、解説でも書かれていますが、「人知れず敵と戦うものたちの物語」に類するエンターテイメント的系譜を意識しているかと思われます。
また、

かたや虐げられる少数派、かたや歪な少数派が、こんな狭い地方都市に寄り集まった。それはなにか大きな力が働いた意味のあることかもしれない。
(文庫版、P303)

というように、ジョジョ4部での
*3
スタンド使いスタンド使いは引かれあう」
のオマージュとおぼしき文もあります。
その異常能力者たちにサファイアとともに立ち向かうマドカたち。ただし、ジョジョと異なりサファイアは幽霊なので物理的接触はなにもできません。
そういう意味では犯人との対峙は常に危険をはらむものであり、読むものの手に汗を握らせます。

町を守る

そして、両作品に共通するのが「町を守る」という「思い」。
*4
それは、主人公であるマドカや仗助だけではなく、「主人公側*5」の人々が持っている思いでもあります。
家族を守るためにスタンドを発現させた広瀬康一、殺人鬼から町を守ろうとした幽霊・杉本鈴美、そしてその意志に応えた岸辺露伴、そして非スタンド使いながら母と杜王町を守るために殺人鬼に一人で立ち向かった川尻早人
一方で『1/2の騎士』も、異常犯罪者から町を守るために、マドカ名付けるところの「ゴリラ」「サイ」「キリン」といったアウトローな人々や、ひよりや「ロク」や「サン」などのマイノリティな人々が協力し、立ち向かいます。
どちらにも共通するのが、まさに第4部ラストでジョセフが語った
*6
「黄金の意志」そのもではないかと思えます。



というわけで、『1/2の騎士』をジョジョラー目線で読んでみました。
こうやってみると、共通する部分が多々あり、我田引ジョジョ(大事なことなので2回いいました)ではあるものの、第4部が好きな人なら楽しめる作品であると思います。
両方のファンとしては、『1/2の騎士』を楽しんだ方は是非ともジョジョの奇妙な冒険第4部を読んでいただきたいですし、ジョジョラーが『1/2の騎士』から初野晴作品に興味を持っていただけたらうれしいなぁ、などと思っています。
そういう意味では、この2作品の橋渡しとして乙一ジョジョ4部小説『The Book jojo’s bizarre adventure 4th another day』なども併せてお勧めしたいですね。
こんなふうに一つの作品から全く新しい読書の世界が広がる、というのも読書の醍醐味だなぁ、と思います。
【ご参考】
乙一『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day』集英社 - 三軒茶屋 別館
ジョジョの奇妙な冒険 29 (ジャンプコミックス)

ジョジョの奇妙な冒険 29 (ジャンプコミックス)

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

*1:29巻、P101

*2:巻29,P178

*3:32巻、P25

*4:29巻、P113

*5:まさにポルナレフのいう「正しいことの白」(27巻、P57)です

*6:47巻、P61