ミステリと落語の融合。「柳家三三で北村薫」レポート
ミステリ+落語というなんとも面白い独演会に行ってきましたのでレポを。
12月18日に、兵庫県立芸術文化センター中ホールにて「柳家三三で北村薫」という独演会が行なわれました。
北村薫の代表作でもある日常ミステリの名作、『空飛ぶ馬』に収録されている表題作「空飛ぶ馬」を、落語家の柳家三三が会話劇にて一人語りする、という演目です。
<円紫師匠と私>と呼ばれるこのシリーズ、日常のなかで発生するちょっとした「謎」を、語り手である女子大生の「私」が落語家の「春桜亭円紫」師匠に相談し、円紫師匠が鮮やかに謎を解くとともに、落語のごとく「人の情」の綺麗さや醜さが浮き上がる、という作風です。
作中では落語についても触れられており、例えば「空飛ぶ馬」では円紫師匠が「三味線栗毛」という演目を噺しています。円紫師匠と「私」による「落語談義」もこの作品の楽しみどころの一つです。
この「空飛ぶ馬」というミステリ作品を、柳家三三という落語家が会話劇にて噺していきます。
「私」による一人称の文体がどのように変わるか不安半分、期待半分でしたが、さすが噺家。複数の登場人物の声色を使い分け、ときに笑いを入れながら、たびたび切り替わる場面をすっと聴くものの頭に浮かび上がらせます。これは「噺家」だからこそ出来る芸当なのかもしれません。
落語であれば要所を押さえながらアドリブで会話させていくことも可能でしょうが、ミステリ作品は聴く人に「伏線」を印象付けつつ矛盾ない会話のやり取りが必要とされます。また、主人公は「私」という「あえて名前が呼ばれていないキャラ」ですので、「私」と登場人物たちの会話が不自然でないように台詞回しを考える必要があります。
しかしながら、この柳家三三という方は、「中学校のときに『空飛ぶ馬』を読んで以来の北村薫ファン」という、いわゆるガチな方(笑)でして、きちんと原作を理解し、消化した上で昇華し、彼なりの「空飛ぶ馬」を創りあげていました。
そして、作中で円紫師匠が噺した「三味線栗毛」を、柳家三三が「春桜亭円紫」として噺しました。
作中では名前が出るものの内容については触れられていない「三味線栗毛」を直に聴けるという点でも満足でしたが、さらに
円紫さんは違う。今日の高座も、その最後の部分に近付いていた。(P333)
とあるように、「空飛ぶ馬」にて円紫師匠が噺した「三味線栗毛」は普通のものとはやや異なります。この円紫版「三味線栗毛」を噺すという、まさに今回しか聴くことにできない演目。
作中作とはちょっと違う作中世界の「具現化」であり、この円紫版「三味線栗毛」を聴いた後に原作を改めて読むとまた新たな面白さが浮かび上がってきます。
「空飛ぶ馬」も作中で噺された落語「三味線栗毛」も年の瀬を舞台にした内容であり、どちらも「人の暖かさ」を根っこに秘めたお話です。
「−−どうです、人間というのも捨てたものじゃないでしょう」(P346)
聴き終わったあとには心がほっこり暖かくなる、なんとも大満足なイベントでした。
どちらかというと北村薫ファンとして聴きにいきましたが、「落語おもしれー」と思ったり。
次回は3月11日に「砂糖合戦」と作中の落語「強情灸」。チケット、予約しました。
●兵庫県立文化センターHPより「柳家三三で北村薫。 〈円紫さんと私〉シリーズより」
- 作者: 北村薫
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