雲田はるこ『昭和元禄落語心中』講談社

昭和元禄落語心中(1) (KCx)

昭和元禄落語心中(1) (KCx)

 賛否両論ありますが、『このマンガがすごい!』などのまとめ本はフジモリのような「適度に欠けたアンテナ持ち」にはありがたい本でして、この本も「『このマンガがすごい!2012』オンナ編第2位!」という帯とプッシュがなかったらフジモリの目に触れ、手に触れることがなかったのかもしれません。
 『昭和元禄落語心中』は、落語の世界にいきる男たち、女たちを描いた人情劇です。

満期で出所の模範囚。だれが呼んだか名は与太郎
娑婆に放たれ向かった先は、人生うずまく町の寄席。
昭和最後の大名人・八雲がムショで演った「死神」が忘れられず、生きる道は噺家と心に決めておりました。 
弟子など取らぬ八雲師匠。惚れて泣きつく与太郎やいかに……!?
昭和元禄落語心中与太郎放浪篇、いざ幕開け!!
講談社「ITAN」作品紹介より

 最近ちょっとだけ落語づいてきたフジモリですが、
三軒茶屋別館 ミステリと落語の融合。「柳家三三で北村薫」レポート
 この主人公の八雲というキャラクタ造形がまず魅力的でした。
 登場しただけで場が盛り上がる昭和最後の希代の噺家。弟子はとらない、普段は厳しい顔をしている、そして後世に自身の芸を伝えず「落語とともに心中しようとしている」かのような立ち振る舞い。
 これが、タイトルの『昭和元禄落語心中』につながるわけです。
 この八雲に押し掛け弟子入りした刑務所上がりの「与太郎」。彼の強引さと子犬のようなひとなつっこさでしぶしぶ弟子入りさせる八雲。
 二人の関係性を軸とした登場人物たちの人間模様は、「落語」という「人間の業やサガを映す」娯楽(あるいは芸)そのものであるかのように、おもしろおかしく、時にはホロリとさせられます。
 キャラクタの立ち位置や与太郎の成長などストーリー上にさまざまなものがひとつひとつ巧みに配置され、まさに「いきいきと」動いている気がします。これは作者の技量によるものでもありますが、まさに「落語」との相性もよかったのかな、と思います。
 さらには「落語」そのものにも興味をもってしまうほどに「落語のおもしろさ」についても語られるこの『昭和元禄落語心中』。
 こういう出会いがあるからこそ漫画読みはやめられないのであり、2巻も先日発売されたばかりですが本編以上に過去編が面白く、これまた大満足でした。

昭和元禄落語心中(2) (KCx)

昭和元禄落語心中(2) (KCx)

このマンガがすごい! 2012

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