ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 22巻』将棋講座
- 作者: 柴田ヨクサル
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/09/16
- メディア: コミック
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的当瞬将聖対鈴木大介八段戦(続き)
●第1図(21巻p200より)
攻防の妙手△1四角。この一手で的当が描いていた勝利への読み筋は大きく狂います。とにもかくにも先手玉には△6九飛の一手詰めがかかっているので▲2五歩と一番安い駒でブロックします。タダで取られる歩ですが、角が動けば▲3二金から後手玉を詰ますことができるので、この歩を取ることはできません。ですが、後手も△5二歩と銀にヒモをつけて自陣をいよいよ本格的に安定化させます。
●第2図(p12より)
風前の灯に見えた後手陣ですが、二手入ったことでかなり安全になりました。とはいえ、以前として先手の攻め駒は後手陣に迫ったままです。先手が攻め切るか、後手が受け切るか。ギリギリの勝負が続きます。第2図からの推測手順ですが、▲1五金△3二銀▲1四金△4三銀▲同成香△6二金と進んだとして、的当が用意していた”とっておき”が放たれます。▲8六角です。
●第3図(p18より)
▲8六角。直接的には飛車取りで間接的には後手玉をも睨んでいる一手です。非常に厳しい一手に見えますが、読み筋とばかりに鈴木八段は△5一玉。いわゆる「玉の早逃げ八手の得」といわれる手筋の早逃げです。的当は当初の狙いどおり▲6四角と飛車を取り、△同歩に▲3一飛と打ち込みますが、△4一歩。
●第4図(p27より)
一番安い駒による鉄壁の壁。ここにきて形勢の差が歴然となってきました。的当も必死に追い込みますが、先手の攻めは後手玉には届かず、とうとう後手からの反撃がやってきます。
●第5図(p33より)
△3八と。▲同金なら△6五角が龍と金の両取りで▲3一龍しかありませんが△2六桂や△3六桂や△3二香といった強烈な攻め*1が待っています。▲同龍なら△4一角で金をボロッと取られてしまいます。狙いすました一着です。的当はここで投了しました。
チッチ対卑弥呼戦
●第6図(p119より)
チッチ対卑弥呼戦はチッチの先手で相矢倉となりました。基本的に両者ガッチリと矢倉に組んで戦う相矢倉戦は先手の攻め対後手の受けという構図になりやすいです。チッチと卑弥呼の互いの棋風を考えれば必然ともいえる戦型だといえます。チッチの攻め対卑弥呼の受けという展開で迎えた第1図。局面は先手の手番ですが、▲2四角!(p119)の角切りからの猛攻が炸裂します。
●第7図(p131より)
▲2四角△同歩▲3五銀△4六銀に▲2三歩の継続手を放ったのが第7図の局面。ここで△同玉の顔面受けもないことはないと思いますが、卑弥呼は△3二玉とかわします(p131)。追撃の▲3三歩(p131)も△4一玉とかわし、以下(推測手順ですが)▲2四銀△5八飛成と進み、▲2二歩成に△5二玉と早逃げし、▲3二歩成は△5三金上(p134)とかわし、▲3三と金も△4三金上(p134)とかわします。
●第8図(p135より)
先手の右辺からの攻めを巧みにかわした後手玉。先手は▲2一と金と駒を補充しますが、この隙に後手から攻め→受けのコンビネーションが飛んできます。まず△6九角。この手は△7八龍▲9七玉△8七龍までの詰めろなので先手は▲6八金引きと一回は受けます。そこで△3八龍と飛車取りに逃げて▲1七飛*2に▲2五角成で第9図。
●第9図(p136より)
桂を取れたのもさることながら*3、2五に馬ができたのが大きくて、この馬が先手の攻め駒を責めながら自玉の守りにもよく利いています。「制圧」といいたくなる気持ちも分かります。ですがチッチはあきらめません。▲2三銀成(p143)と一回は銀を逃がし後手が△6四歩(p143)と歩でプレッシャーをかけてきたところで▲1一と金(p144)と駒を補充して力を溜めます。後手は△7三角と上がり眠っていた角の活用を図りますが、この手が危険だったかもしれません。先手に角頭を狙う挟撃の手段を与えることになります。▲7五歩(p145)△同歩(p147)▲7四銀(p147)。
●第10図(p152より)
あれだけ広く見えた後手の左辺に火の手が上がり、あっという間に後手玉が危ない形に。卑弥呼は△8四角と角を逃がしてチッチの攻めを受け切る決断をします。攻め切るか受け切るか。ギリギリの攻防です。攻めるときには守備の要である金を攻めるのが基本です。ということで▲5六桂(p155)。以下△5四金寄(p156)▲6五歩△同金(p156)▲同銀△同歩(p157)と金銀交換が行われて▲7四金△9三角に▲6四香(p160)。後手の守備駒をはがした上で左辺への逃げ道を完全に封鎖する香打ち。次は▲5四歩などの攻めが厳しく写りますが、△5四銀。
●第11図(p165より)
とはいえ、後手玉は依然として包囲されたまま。ここで▲3二成銀や▲4三歩と右辺から詰めろでプレッシャーをかけていく手も有力に見えますが、本譜チッチは眠っていた飛車の活用を目指します。▲6七飛△5五銀▲5七飛(p171)と互いの駒が中央でぶつかり合う形ができあがりました。きわどい局面から後手が選んだのは△4三金!
●第12図(p176より)
と金に金をぶつける一手です。もちろん▲同と金なら後手明らかな駒損ですが、そこで△同玉とすれば馬と龍の利きが強く先手からの攻めが切れている、という判断なのでしょう。
●第13図(p184より)
そこでチッチは金を取らずに香成で後手玉に迫ります。まだまだ勝負の行方は分かりません。ということで次巻に続きます。
勝利をつかむ受け
『ハチワン』は、そもそも中静そよという”アキバの受け師”という受けを圧倒的に得意とするキャラがストーリーを引っ張ってきましたが、ここにきて谷生卑弥呼というそよとは違うタイプの受けを得意とするキャラが活躍を見せ、さらに的当対鈴木戦などでも受けに焦点が当たる対局が増えてきています。
将棋というのは相手の玉を詰ますことが目的のゲームですから、まずは攻めること、すなわち攻め方や詰まし方を覚えることが大事です。しかし、ある程度将棋を覚えると、攻めるだけでは勝てないことに気づきます。攻め合いともなれば的確に受けた方が勝利しますし、形勢が不利なっても正確な受けの手を指し続けることが逆転へとつながります。
そんな受けがテーマとなっている珍しい棋書があります。『橋本崇載の勝利をつかむ受け』です。
- 作者: 橋本崇載
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2010/02/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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【参考】『橋本崇載の勝利をつかむ受け』(橋本崇載/NHK出版) - 三軒茶屋 別館
以上ですが、何かありましたら遠慮なくコメント下さいませ。ばしばし修正しますので(笑)。
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