『ひらけ駒! 3巻』(南Q太/モーニングKC)

ひらけ駒!(3) (モーニング KC)

ひらけ駒!(3) (モーニング KC)

 この漫画は主に菊地母と宝という二人の主人公の視点から将棋との関わりが語られていますが、こうした二つの視点から将棋の面白さと苦しさが巧みに描かれています。
 15級でアマ大会に出た大会は望外の連勝スタートによって将棋の面白さを実感します。観るだけではわからない将棋の面白さ。自分の思い通りに陣形が組めたときの安心感。中盤での指し手の迷い。(ヘボなりの)読みと決断。終盤での例えようのない緊張感と終局後の充実感。そして、たった一手の悪手によってそれまで積み重ねてきたリードがあっという間に無となり敗北へと直結する将棋の恐ろしさ……。将棋はまさに”逆転のゲーム”なのです。将棋は勝負ですから、指せば勝ったり負けたりです。でも、指し始めのころは指せば指すほど強くなれますし、将棋がいろいろとわかってきます。それはとても楽しいことです。
 一方で、定跡を覚え、詰将棋もこなし、指し手を選ぶのにも自分なりに手を読んで指せるようになってくると、そこには壁が待ち構えています。強くなったからこそ見えてくる壁。そんな試練に直面しているのが宝です。なにしろ、将棋の強さというのはわかりにくいです。運動系スポーツのように筋肉がつくわけでもなければ華麗な技が披露できるわけでもありません。ひたすら勉強して実戦を指して、それでも勝てなくて落ち込む。自分の実力を疑う。弱気になってまた負ける。
 本気になって何かに取り組むということは、楽しいことばかりではありません。そんなふうに苦しんだり悩んだりしている人を助けたり見守ったりすることも大切さと難しさが、菊地母の視点から描かれています。将棋漫画としてはもちろん、母と子の絆を描く親子漫画としても本格的です。オススメです。
 以下、将棋ヲタ的観点からの補足的雑感です。

女子アマ将棋団体戦

 2巻から3巻にかけて菊地母が参加している女子アマ将棋団体戦LPSA日本女子プロ将棋協会)主催の大会です。2011年の第5回大会は10月29日(土)に行われます。興味のある女子の方は参加を考えてみればいいと思うよ。
【関連】女子アマ団体戦|LPSA|

菊地母はいかにして相手玉をしとめたか。


 本書p13〜15の盤面。この盤面、後手玉はもちろん詰んでますが、詰まし方が問題です。持ち駒が飛金銀桂歩とたくさんありますから、▲8二飛△9三玉▲8五桂△8四玉▲7五金と持ち駒をペタペタと貼りまくれば詰ますことはできます。ですが、菊地母はp15で銀を手に取りました。果たしてその意図は?
 ここでは▲9三銀と打つのが好手。△同桂と銀は取られますが、▲8二金まで(この場合は飛でもいいです。)の詰みです。単に▲8二金や飛だと△9三玉と逃げられてしまいますので、▲9三銀と捨て駒を打って△同桂と取らせることで逃げ道を失くすのが短手数で詰ますポイントです。この手筋は実戦でもよくでてきますので覚えておきたいです。

笑え、ゼッフィーロ

 p26で「将棋マンガってけっこうあるでしょ〜〜」という話になって、いろんな将棋マンガの名前が挙がっています*1。その中に、『笑え、ゼッフィーロ』というタイトルがあって、心当たりのない方もおられるかもしれませんが、『笑え、ゼッフィーロ』(作者:柳葉あきら)は「週刊将棋」という将棋専門誌に連載されている将棋漫画です。神奈川県西部の私立西ヶ丘高校の学生将棋に励む少年少女たちの姿が描かれています。涙あり笑いあり恋愛模様あり熱血将棋バトルありのお話です。専門誌に埋もれさせておくにはあまりに惜しい作品です。単行本化希望!

スズメ刺しとは?

 スズメ刺し(雀刺し)とは、香車を三段目に上げてその下に飛車を回して飛車角桂香歩を使って相手の端を集中突破しようとする戦法のことです。

 図は一例ですが、このように戦力を相手の端一点に集中させて突破することが狙いです。本書の場合のスズメ刺しは、おそらく▲6九玉を入れずに居玉のままスズメ刺しを仕掛けたものと推測されます。それがp70の飛車金両取りが発生した遠因だと思います。
【関連】
『ひらけ駒! 1巻』将棋ヲタ的雑感 - 三軒茶屋 別館
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