ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 16巻』将棋講座

ハチワンダイバー 16 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 16 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 16』(柴田ヨクサルヤングジャンプ・コミックス)をヘボアマ将棋ファンなりに緩く適当に解説したいと思います。
(以下、長々と。)
 谷生対そよ戦。谷生はアメリカ最強に授けた新鬼殺し戦法を採用しました。
●第1図(p14より)

 新鬼殺し戦法の”蛹”とそよが表現してる状態です。この局面から、対アメリカ最強戦では△3二金として新鬼殺しが挑発している角交換の変化を避けたそよですが、今回は堂々と応じます。谷生はもちろん▲同桂。
●第2図(p15より)

 新鬼殺しをあえて発動させたそよですが、ここで狙いの一手が出ます。△6四歩!
●第3図(p17より)

 新鬼殺しの変化において考えられる手――刺客として谷生が挙げている△2二角、△4五角、△5四角、△8六歩といった手は『新鬼殺し戦法』(米長邦雄山海堂)にて検討されています。
将棋奇襲〈2〉新鬼殺し戦法 (MAN TO MAN BOOKS)

将棋奇襲〈2〉新鬼殺し戦法 (MAN TO MAN BOOKS)

 詳しくは同書を参照していただきたいのですが、△2二角(▲5五角と▲6五角を防ぎつつ▲8六歩を狙う)には▲6六角で、△4五角には▲6五桂で、△5四角(▲6五桂を防ぎつつ角成を防ぐ)には▲5五角で、△8六歩には▲同歩△同飛▲7四歩△8九飛成(△8七飛成)▲8八飛で、いずれも新鬼殺し良しとされています。
 ですが、この△6四歩は検討されていない一手です。この手の意味としては、直接的には▲6五桂を防ぎつつ間接的には飛車のコビン(7三の地点)を角で狙われる筋を緩和するということで、確かによさそうな手ではあります。ありますが、本当にこれでよいのか、新鬼殺し殺しといえるだけの決定打となっているのか……。私の棋力では判じかねるというのが正直なところです(トホホ)。
 実戦ですが、ここから谷生の鬼の攻めが炸裂します。▲5五角△2二銀▲7四歩と、「強引にっ」(p48より)と飛車のコビンをこじ開けにいきます。さらに△同歩▲6四角△4四角▲6五桂△6二金▲7二歩△同金▲5三桂不成△7三金▲7四飛!
●第4図(p51より)

 自玉の守りに一切手数をかけないままの飛車角桂歩のみの攻め。「初心者相手にでも指してるつもり?」とそよは言ってはいますが、飛角桂の攻め駒がそれぞれ存分に働いていて迫力満点です。なお、第4図までと以下の手順については将棋日記 by yamajunn21さんの「新鬼殺し;谷生vs中静そよ戦」の疑問という記事のコメント欄にある手順を参考にさせていただいています。第4図以下、△7四同金▲8二角成△同銀▲6一飛△5二玉▲4一飛成は確実でしょう。
●第5図(p52より)

 この後の想定手順として△5三玉▲2一竜△5六歩▲5一龍△6三玉▲5六龍△9九角成▲6六桂、△5二香、▲6二金が考えられます。
●第6図(p53より)

 △同玉は▲7四桂の王手銀取りですし、△7三玉や△6四玉は▲5二龍。駒を取りながらの先手の攻めがなかなかほどけません。
●第7図(p58より)

 投了図、後手玉は受けなしです。△8一玉は▲8三銀成でやはり受けがありませんし、△8一香や△8二金は▲8四桂以下の詰みです。対して先手玉は手つかずで寄りがありません。投了もやむなしです。
 他に投了図の確認をいくつか。まずは谷生対菅田戦。
●第8図(p74〜75より)

 図で後手玉は詰んでいます。△同玉は▲6六金△6四玉▲6五香までですし△4四玉も▲4五金まで。ゆえに投了もやむなしです*1
 あと、菅田対鮫戦。
●第9図(p189より)

 やはり図で後手玉は詰んでいます。第9図以下変化はありますが一例として、△同香▲同龍△2四玉▲2五香△同玉▲2六金△3四玉▲1四龍△▲2五金△3三玉▲2四金△4二玉▲1二龍△5三玉▲5二金まで。ゆえに投了もやむなしです。
 以上ですが、何かありましたら遠慮なくコメント下さい。ばしばし修正しますので(笑)。

【関連】
・『ハチワンダイバー』単行本の当ブログでの解説 1巻 2巻 3巻 4巻 5巻 6巻 7巻 8巻 9巻 10巻 11巻 12巻 13巻 14巻 15巻 17巻 18巻 19巻 20巻 21巻 22巻 23巻 外伝
柴田ヨクサル・インタビュー
『ハチワン』と『ヒカルの碁』を比較してみる

*1:ただ、この将棋は出だしが少々納得がいきません。なぜなら、谷生の初手▲7六歩に対して菅田が△8四歩と指しているからです。△8四歩自体は普通の手ですが、飛車先を突くこの手は居飛車で指すことを早々に明示する手であるといえます(もっとも、陽動振り飛車という戦法もあるにはありますが)。なので、居飛車振り飛車かの態度をぎりぎりまで保留するハチワンシステムとは真逆を行く手だといえます。なので納得がいかないかなぁと。もっとも、ここは物語の展開上そよの投了図との対比がどうしても必要で、であるならばこの対局においても新鬼殺しが指されなければなりません。そして、新鬼殺しは実は2手目が△8四歩でないと成立しない戦法なのです。そのため、ここではハチワンシステムを志向する△3四歩ではなく、新鬼殺しを誘発する△8四歩が物語の都合上選ばれたということがいえると思います。