ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 23巻』将棋講座
- 作者: 柴田ヨクサル
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/12/19
- メディア: コミック
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チッチ対卑弥呼戦(続き)
●第1図(22巻p184より)
攻め切るか受け切るか。ギリギリの攻防が続く第1図。卑弥呼は△同銀(p12)と応じますが、そこでチッチ渾身の勝負手▲6四桂!
●第2図(p18より)
△同銀上*1もありそうですが、それは▲同金が詰めろ(▲5五飛△6二玉▲6三銀△7一玉▲8二銀△同角▲7二歩△6一玉▲5二飛成)なので受けねばならず先手の攻めが続きます。ここで卑弥呼も勝負手。相手の攻めの拠点である飛車に向かってあえて踏み込む△5三玉!
●第3図(p35より)
作中で菅田たちが驚愕しているように、この手は銀がタダです。ですが、仮に▲5五飛とすると、△5四金と手順に金を逃げながら受けられて、▲4二銀と絡んでも△4四玉と飛車を責めながら後手玉が逃げ出してきます。こうなると先手には後手玉を捕まえる手段がありません。本譜、チッチは▲6三金△同玉(p48より)を入れてから▲5五飛としますが、それでもやはり△5四金が決め手。
●第4図(p51より)
”桂頭の玉寄せ難し”という格言もあるとおり、▲5二銀(▲7二銀)などと絡んでも△6四玉と桂を取る手が飛車取りとなり、後手玉の上部脱出を食い止めることができません。つまり、”受け切り”です。チッチは▲同金(p68より)以下と指し続けますが……。
●第5図(p76より)
終了図(時間切れ負けなので投了図ではありません)。入玉については二こ神さんの将棋などで何度も説明されてきましたからここでは繰り返しません。時間切れ負けですが攻めが切れての負けでもあります。二重の意味での”切れ負け”です。
本局ですが、必ずしも後手が終始優勢だったとは思っていません。先手がよかった局面もあったと思います。私の棋力では断定的な形勢判断はできませんので、そこはご容赦を(トホホ)。ただ、攻めている方が好調に見えても、攻めが切れないように指し続けることは困難です。そして、攻めが切れてしまえば一転して敗勢となってしまいます。そんな玉の取り合いとはまた違った将棋のスリリングな一面が、本局ではうまく表現されていたと思います。
右角対橋戦
続いて右角ヒサシ対橋架男(なんちゅー適当な名前…)戦です。
●第6図(p139より)
右角の十八番(というより、これしか指さない)右四間飛車戦法。右四間は銀を腰掛けて飛車を4筋(後手なら6筋)に振ってと、攻めの形をいち早く作り上げるのが大きな特徴です。逆にいえば、形を早くに決める戦法であるともいえます。右角の戦法を右四間と早々に察知した橋は右四間を真っ向から封じる戦法を見せます。それがこの珍形”金銀橋(リッチブリッジ)”です。
その意味は作中で説明されているとおりで、右四間ならではの4筋からの仕掛けに二枚銀と桂馬と飛車で備えつつ、角交換の展開になったらバランスで優位に立つことを目論んでいます。玉形は穴熊でこれ以上手をかけることはできず、かといって攻めの手も見つけられない右角は仕方なく▲6八金〜▲5八金と右金を左右に動かして”手渡し”。これには橋も△8二玉〜△7二玉の”手渡し”で対抗。やはり作中にあるとおり、後手番の橋にしてみれば千日手になったところで痛くもかゆくもありません。結果、千日手が成立となりました。
千日手となれば通常は持ち時間を調整した上で先後入れ替えて指し直しとなります。このトーナメントでも時間については分かりませんが、やはり先後入れ替えて指し直しとなりましたが、右角は”金銀橋(リッチブリッジ)”との再戦を要求。橋としてはせっかく先手になったのですからもう少し積極的な戦法を選んでもよいのですが、律儀に再戦を受けて立ちます。金銀橋対右四間の勝負の行方は……? 続きは24巻で。
雁木右玉対腰掛け銀居飛穴対策
菅田が「見た事のない戦法だ」と言っている金銀橋(リッチブリッジ)戦法ですが、元ネタと思われる指し方があります。雁木戦法についての解説本『雁木でガンガン!!』(監修:森内俊之・著:小暮克洋/主婦の友社)で紹介されている右四間穴熊対策として紹介されている右玉雁木がそれです。
初手より、▲7六歩△8四歩▲6六歩△3四歩▲7八銀△6二銀▲4八銀△6四歩▲6七銀△6三銀▲5六歩△5四銀▲7八金△6二飛▲7七桂△4二玉▲5七銀△3二玉▲5八金△3三角▲4六歩△2二玉▲3六歩△1二香▲4七金△1一玉▲3七桂△2二銀▲4八玉△3一金▲2九飛△4四歩▲1六歩*2で第7図。
●第7図(『雁木でガンガン!!』p149より)
後手(右四間)側が飛車先をひとつ突いてたり角道を閉じてたり、手順としても作中の金銀橋は飛車の横移動を優先しているようだったりと、多少の違いはあるものの、金銀橋の原型が雁木右玉であることは間違いないと思います。いわれてみれば、二枚銀のかたちなど雁木そのものです。
ちなみに、右玉とは居飛車における玉の囲い方の一種です。居飛車では通常、玉は飛車と反対側、つまり左側に移動します。それを反対側に移動させるので右玉という特殊な呼び方をします(【参考】右玉 - Wikipedia)。
雁木でガンガン!!―破壊力抜群の痛快!必殺戦法 (森内優駿流棋本ブックス)
- 作者: 小暮克洋,森内俊之
- 出版社/メーカー: 主婦と生活社
- 発売日: 1999/10
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”手渡し”とは?
相手に手を渡す
指し手が見えない、つまり「これがよさそうだ」という手が一つも見えない場面も多い。そういうときは、どうするか?
将棋は、お互いに一手ずつ手を動かしていき、指していく。だから、自分が指した瞬間には自分の力は消えて、他力になってしまう。そうなったら、自分ではもうどうすることもできない。相手の選択に「自由にしてください」と身を委ねることになる。そこで、その他力を逆手にとる。つまり、できるだけ可能性を広げて、自分にとってマイナスにならないようにうまく相手に手を渡すのだ。
(『決断力』p37より)
将棋は先手と後手が交互に手を指すことによって進められるゲームです。逆にいえば、自分の手番が回ってきたら絶対に指さなければなりません。パスはできませんし、指せなければ(例:玉が詰まされた)投了です。なので、自分の手番であればプラスの手を指すことを当然心掛けますが、プラスの手が見当たらない場合には、下手に攻めたり自陣に隙を作らないように、すなわちマイナスの手を指さないようにすることも大切です。それが”手渡し”です。
【関連】「将棋の手はほとんどが悪手である」(羽生善治) - 三軒茶屋 別館
- 作者: 羽生善治
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