第一部、完。 『バクマン。』11巻書評
- 作者: 小畑健,大場つぐみ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/12/29
- メディア: コミック
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ファンブックについては別記事でおすすめしましたが*1、アニメ化も順調でまさに脂の乗っている感がある『バクマン。』ですが、マンガそのものも、この巻で最大の盛り上がりを見せます。
さらに面白くするために
前巻で自分たちの集大成である「シリアスな笑い」を組み込んだマンガ「完全犯罪クラブ(仮)」を連載会議に通した亜城木夢叶ことサイコー・シュージン。しかしながら、単に連載を勝ち取るだけでなく、ライバルである新妻エイジに勝つために、さらなる努力をします。
*2
ややピントの外れた視点かもしれませんが、フジモリは『バクマン。』で描かれる「漫画家とマンガ」の関係は「ペルソナ使いとペルソナ」のそれに似ている部分があるなぁ、と思っています。「本人がレベルアップしないと強いペルソナが使えない」「ペルソナ自身もレベルアップする」という図式で読み解くと、これまでは亜城木夢叶自身のレベルアップを中心に物語が進んでいましたが、自身がレベルアップしてその「マンガ」が描きこなせるようになり、この巻では「マンガ」そのものをレベルアップさせるフェーズにシフトしています。
見せ方や構成など、「そのマンガをいかに面白くするか」に注力する二人。
もちろん、自身の作品を「いかに面白くするか」というのは作家なら誰しも砕身しています。
小説家、伊坂幸太郎は自身の作風についてこう語っています。
最近になって「自分はサービス精神があるんだな」ということに気づいてきたんです(笑)。伏線を回収するというのも、自分が好きというよりも、読者に喜んでもらいたいからなんですよね。僕が好みの小説は、伏線を回収していないものもたくさんあるんです。急に怖いことが起こらなくてもいいんですけど、どうせ読むならこういうことがあったほうが、楽しんでもらえるんじゃないかな、と。
(講談社「IN POCKET 2008年9月号 P20)
インタビュアー 久米田先生の作品は、シニカルなギャグと並んで、単行本の表紙に端的に表れているように、デザイン性の高さで人気を集めていると思いますが。
久米田 初めて聞きました(笑)。単行本に関しては、マンガ自体に自信がないので、お金を払っていただくならせめてそういうところで頑張っておかないといけないと思ってるんですよ。そういう不安からきているんです。本編に自信があればデザイナーさんに丸投げしてもいいんでしょうけどね。僕は多分ソレだと、そっぽ向かれちゃうんです。必死ですよね、その辺は。
(『このマンガがすごい!SIDE-B』P32)
しかしながら、サイコー・シュージンは「アンケート人気をとる」ために面白くしようとしていますが、「読者を楽しませる」という視点で作品を面白くしようとしていないということがフジモリ的には気になります。
この視点がさらなるレベルアップの要因となる二人の瑕疵になるのか、はたまたスルーされるのか(笑)、ある意味、先が楽しみなところです。
読者の「楽しませ方」
「完全犯罪クラブ」改め「PCP−完全犯罪党−」とタイトルを付け、主人公たちの名前も決めた二人。
連載に向け、アシスタントを補強します。
*3
癖のありそうなメンバーですが、最初の連載である「疑探偵TRAP」の時とは違い、リーダーシップを発揮しまとめあげています。
こういった「成長」の見せ方もまた巧いと思います。
そしてまた、仕事中、アシスタント同士で「マンガ論」について火花が散ります。
*4
娯楽か、芸術か。このマンガ論については決して結論のでない議論だと思います。
例えば、『DRAGON BALL』の作者である鳥山明と、『電影少女』の作者である桂正和が合作読み切りを書いた際に、お互いの差異について、対談でこう語っています。
鳥山「(中略)ネーム読んで”内容ないですね”って。僕は、内容ないのが好きなんですよ。でも彼(フジモリ註:桂正和のことです)は、ものすごく内容を入れたがるの。”人間的なテーマ”みたいなのを。僕はそういうの大っ嫌いなのに(笑)」
桂「今回の仕事で確信したんだけど、鳥山さんは本当に狙って内容を描いていないの。だから俺にとって、このネームは強敵。感動を誘うものを置かないように、意図的にやっているんですよね。(後略)」
(ジャンプ MASTERPIECE VOL.002 P123)
同時代にデビューしそれぞれ一世を風靡した漫画家でありながら、意図的に「軽いもの」を描く鳥山明と、ダークでヘビーな内容が好きで「ドラマ」を描く桂正和、その姿勢は180度異なります。
しかしながら、彼らの作品はともに読者を楽しませる「作品」となっています。
サイコーも言っていますが、才能や個性に応じ描く作品は人それぞれですし、それらを突き詰めることで「名作」が生まれるのだと思います。
第一部、完
無事に連載を開始した「PCP−完全犯罪党ー」。
二人の渾身の作品はまた、読者に受け入れられます。
*5
今までの努力が報われた瞬間であり、これまでの彼らの苦労を知る読者もまた、カタルシスを得る瞬間です。
サイコーは、読者アンケートをとある人に見せたいと言います。
*6
亡くなった漫画家だった伯父に報告するサイコー。
この話で、物語はいったんピークを迎えます。
実のところ、『バクマン。』そのものも、この話近辺で担当が変わっています。
門司 ついこの間『PCP』がアンケートで一位をとった回は、びっくりするぐらい票がよかったです。引き継いだ直後の、相田さんと一緒に打ち合わせした回ですよね?
相田 そうそう、「新しい担当です」って大場さんの所に行って、三人で打ち合わせした回。だからいろんな意味で、僕の中では、あそこで第一部完。あとは門司に任せた、みたいな(笑)。
(Quick Japan vol.92 「『バクマン。』新旧担当編集者対談」P50-51)
次巻でもふれますが、まさにピークに向け物語を進め、ピークの話が読者に受け入れられる。
『バクマン。』というマンガそのものが、『バクマン』のストーリーとシンクロしているかのように感じられる、まさに「第一部 完」という盛り上がりだと思います。
とにもかくにもこの巻ではこれまでの集大成が報われる、まさにピークの巻でした。
実際のところ、この話でいったんピークを迎えた物語がどのように進むのか、次巻以降別な意味で楽しみにしてしまうわけなのですが(笑)、その辺も含めて続いていく彼らの物語を次巻も楽しみにしたいと思います。
●『バクマン。』と『DEATH NOTE』を比較して語る物語の「テンポ」と「密度」 『バクマン。』1巻書評
●『バクマン。』と『まんが道』と『タッチ』と。 『バクマン。』2巻書評
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●キャラクター漫画における「2周目」 『バクマン。』8巻書評
●「ギャグマンガ家」の苦悩 『バクマン。』9巻書評
●「集大成」への道のり 『バクマン。』10巻書評
●第一部、完。 『バクマン。』11巻書評
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●スポーツ漫画のメソッドで描くことの限界について考察してみる。 『バクマン。』13巻書評
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●天才と孤独と孤高と。『バクマン。』16巻書評
●リベンジと伏線と。 『バクマン。』17巻書評
ジャンプSQ.M vol.002 (集英社マンガ総集編シリーズ)
- 出版社/メーカー: 集英社
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