『”文学少女”と恋する挿話集 4』(野村美月/ファミ通文庫)

“文学少女”と恋する挿話集4 (ファミ通文庫)

“文学少女”と恋する挿話集4 (ファミ通文庫)

 わたしが、どれほどあなたに恋していたか。

 挿話集4冊目。最後の短編集です。
 外伝である”見習い”シリーズも大団円を迎えた後の刊行となった本書は正真正銘の”挿話”集だといえます。本書は、目次的には3部構成になっていますが、中身としては主要人物のほとんどが出てくるバランスの取れた構成となっています。それに加えて、最後に《”文学少女”の気持ち》とあるように、遠子の想いが補強されているものとなっています。
 全体的な内容としては、巻を重ねるごとにキャラクタも十二分に立っているだけに名作文学への依存度も低いものが多く、「書ききった」という感がもはや強くなってしまっているのは否めません。シリーズ終了を迎えるにあたって思い残すことはないという納得の気持ちと寂寞の気持ちとがない交ぜの微妙な読後感をです。
 とはいえ、読み応えがなかったというわけではありません。初めに収録されている「”文学少女”見習いの、発見。」は、「銀河鉄道の夜」というシリーズ的に思い出深い作品を題材に、文学作品の読み方の多様性や菜乃と心葉の文学部としての日常や菜乃(と心葉)の成長が垣間見え、短いながらも印象に残る作品です。思うに、本作は”文学少女”シリーズの特性である論理療法(ABC理論)的効果を端的に表わしているといえます。
 論理療法(ABC理論)とは、人の悩みは出来事そのものではなく出来事の受け取り方によって生み出されるものであり、受け取り方を変えれば悩みはなくなる(【参考】論理療法 - Wikipedia)というものです。あるA:Activating event(出来事)に対して、文学作品の読み方のひとつをB:Belief(信念、固定観念として提示し、そこから、後ろ向きな生き方というC:Consequence(結果)が生まれます。そうしたBeliefに対して、新たに別の読み方を提示することでD:Dispute(論駁)し、救いや未来といったカタルシスE:Effect(効果)を得る。心理学的にいえば”文学少女”シリーズはこのような構造の作品として理解することができるでしょう。
 他に、心葉の妹である舞花が主人公の作品が収録されていたのには少々意表を突かれましたが、堂々たるブラコン(笑)から淡く切ない初恋へと揺れ動く微妙な恋心を描いた「不機嫌な私と檸檬の君」も印象に残ります。ニヤリ度では、個人的には美羽と芥川のその後を描いた「美羽〜戸惑いながら一歩ずつ」がピカイチだったと思います。
 挿話集はこれにて完結。本シリーズも残すは最終巻『半熟作家と”文学少女”な編集者』のみとなりました。作家が主人公だったりヒロインだったりするライトノベル作品というのは、考えてみれば意外とあります。果たして最終巻はそうした作品とはどのように一線を画して、そしてどのように”文学少女”らしさを出してくるのか。不安なような楽しみなような、そして寂しいような……。とにもかくにも最終巻の刊行を待ちたいと思います。
【関連】
・プチ書評 ”文学少女”シリーズ 1巻 2巻 3巻 4巻 5巻 6巻 7・8巻 短編集1巻 短編集2巻 短編集3巻 外伝1巻 外伝2巻 外伝3巻 編集者
”文学少女”が本を食べる理由についての駄文
木々高太郎と野村美月の『文学少女』
”文学少女”の三題噺と小説のプロットについて
青空文庫で読む”文学少女”