W主人公マンガとしての『バクマン。』 『バクマン。』18巻書評
発売から1年近く経っていますが、アニメが終盤に入っていてぎりぎり賞味期限切れには間に合ったかなぁ。。。遅くなりましたが、ご寛恕いただければ幸いです。
- 作者: 小畑健,大場つぐみ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/05/02
- メディア: コミック
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全体を通しての感想は最終巻の書評にとっておくとしますが、途中に中だるみはあったもののうまく幕が下ろせた作品だと思います。
書評も3巻まとめて連続での内容で、本編のストーリーを通してフジモリなりの『バクマン。』評をつらつらと書いていきたいと思います。
W主人公マンガとしての『バクマン。』
新妻エイジに対抗するために黒と白とのW主人公の物語『REVERSI』を読みきりとしてひっさげてきた亜城木夢叶。
それは「邪道な王道マンガ」という新妻エイジを意識した作品であり、王道に邪道を取り入れた新妻エイジの読みきり『ZOMBIE☆GUN』と真逆な作品でした。
お互いがお互いを意識し、新たな作品を生みだした二人(一人と一組)の漫画家。
注目の、読切のアンケート結果は僅差で亜城木夢叶『REVERSI』の勝利。初めて、亜城木夢叶が新妻エイジに勝った瞬間でもありました。
作中作『REVERSI』のW主人公という発想は当然ながら『バクマン。』というマンガ自体のW主人公を意識したものであり、さらにさかのぼると同作者コンビの『DEATH NOTE』第二部における「キラvsニア&メロ」という構図そのものだといえるでしょう。
*1
Lという天才的な先人でも勝てなかったキラに対し、アプローチは全く異なるものの、最後に二人の力を合わせることでキラに勝つことができたニアとメロ。
メロはいつも一番になる 私を超え Lを超す
そう言っていましたが
・・・・・・・・・・・・・・・
わかっていたんです
私はLを超せないこと・・・
もしかしたら 私は行動力に欠け メロは冷静さに欠ける・・・
つまり 互いが互いの目標とする者を超せなくとも・・・・・・・・・・・・・・・
二人ならLに並べる
二人ならLを超せる
それは、Lとキラとの戦い、キラの勝利という最高の形*2で終わった第一部を引き継いだ第二部そのものを体現している言葉であり、原作者と作画者の二人三脚で描かれた『DEATH NOTE』という作品そのものを表している言葉でもあります。
『バクマン。』はこの「W主人公」をさらに物語の主軸に組み込んだマンガであり、原作者・大場つぐみと作画者・小畑健の二人組によって産み出された『バクマン』という作品の、亜城木夢叶というW主人公によって産み出された、これまたW主人公の『REVERSI』がライバルを倒す、というのはなんともメタ的であり、興味深いところです。
実際、『バクマン。』そのものも「このマンガがすごい!2010」において怪物マンガ『ONE PIECE』をおさえ1位を獲得しています。
*3
作中作『REVERSI』は、「二人なら勝てる」という作者の意志が脈々と受け継がれた『バクマン。』の集大成といえる作品なのでしょう。
ジャンプにおける「編集者」
アンケート新記録という偉業を達成した『REVERSI』。しかし現在ジャンプでは『PCP』を連載しています。
当初は別雑誌「必勝ジャンプ」で『REVERSI』を連載するという話でしたが、編集者・服部の熱意で『REVERSI』をジャンプ本誌で、『PCP』を必勝ジャンプで連載ということになりました。
『バクマン。』の助演男優賞を挙げるとしたら新妻エイジと服部のどちらを選ぶか非常に悩むところですが、フジモリはやはり服部を挙げたいと思います。
●編集者という「コーチ」と、現代の「コーチング」 『バクマン。』4巻書評
『バクマン。』は、漫画家の物語であり、漫画家と編集者の物語でもありました。
週刊少年ジャンプという媒体で掲載されている以上、当然ながら編集者を悪く描くことはできないとは思いますが、それでもジャンプの編集者の「熱さ」がこのマンガの売りでもありました。
もともと、マンガ雑誌における「編集者」の位置づけを変化させたのは週刊少年ジャンプだったそうです。
ジャンプ創刊当初は、「あしたのジョー」と「巨人の星」の2枚看板を持つ少年マガジンの力がきわめて強く、ジャンプは後発、かつ大物漫画家を確保できない極めて不利な状態から始まりました。
こうした状況下で、『少年ジャンプ』編集部は大物漫画家が使えないという弱みを逆手に取り、新人漫画家を発掘し登用するという戦略に出た。そのうえで、漫画家は原則『少年ジャンプ』専属とし、「○○先生の漫画が読めるのは『少年ジャンプ』だけ」とうたい、差別化を図ったのだ。
とはいえ、肝心の漫画が面白くなくては、このような差別化をしても意味がない。『少年ジャンプ』は、コンテンツの魅力を高めるため、ストーリー展開やキャラクターづくりなどを漫画家に任せきりにするのではなく、編集者を漫画家にマンツーマンに近い形ではりつけ、一緒に考えさせるという方式をとった。編集者に、それまで以上にプロデューサーに近い役割を担わせたのである。
(ダイヤモンド社『MBAマーケティング』P29より)
他誌ではどのような手法をとっているのかは不明ですが、編集者と漫画家の二人三脚で作品を作るというやり方は他の「漫画家マンガ」に対し『少年ジャンプ』の色を反映しているのかもしれません。これもまた、漫画家と編集者という「W主人公」だと言えるでしょう。
ダメ漫画家・平丸の幸せを心から願い、彼と青樹先生の恋愛の後押しをした編集者・吉田など、『バクマン。』はまた、編集者の物語でもあったのです。
これからの「ジャンプ」
『REVERSI』と『ZOMBIE☆GUN』は互いを意識しながらジャンプの看板マンガとして人気を上げていきます。それはまた、「新妻エイジと亜城木夢叶の2大漫画家が引っ張る少年ジャンプ」という前編集長の夢が叶った瞬間でもあります。
*4
この段階では”『バクマン。』の「ジャンプ」”と”現実の「ジャンプ」”とは解離し、”『バクマン。』の「ジャンプ」”には『ONE PIECE』も『トリコ』も『NARUTO』も掲載されていないんでしょう(笑)。
実際のところは現実の「ジャンプ」では『ONE PIECE』『BREACH』『NARUTO』など長期連載の怪物マンガに支えられているのが実状で、中堅と呼ばれる位置のマンガが先に終わり、入れ替わっていくという状況です。
マンガというビジネスに対し鋭いツッコミを入れている『なる☆まん!』では、「長期連載マンガの急増は雑誌側の都合とマンガ家側の既得権保持」とバッサリ切り捨てています。
*5
当然ながら長期連載マンガは長く愛されているだけあり面白いことは確かですし、『ONE PIECE』のようにストーリーが広大すぎて自然に長くなってしまい、かつ途中の中だるみはありながらもしっかりと「山」を見せてくれるマンガが多いことは確かです。
それでも、「長期連載マンガに変わる新たなマンガ」への世代交代は必要でしょうし、「どうやって世代交代を行うか」という手法に雑誌側は頭を悩ませていることも事実です。
『バクマン。』でも、新妻エイジと亜城木夢叶の二人三脚による「次世代のジャンプ」というファンタジーをてらいもなく描いています。また、亜城木夢叶は『REVERSI』の作品の質を上げるために50話程度での連載終了を服部に伝えました。
*6
「ジャンプ」という枠にありながら、現在の「ジャンプ」に対しやんわりともの申すところなどは連載当初から『バクマン。』のスタンスは変わらないなぁ、などと感心してしまいます。
新妻エイジと亜城木夢叶による新たな「少年ジャンプ」。いよいよ、『REVERSI』のアニメ化に向けて突き進んでいく次巻でありますが、またまた大きな障害が発生します。
あと2巻、この書評にももうしばしおつきあいのほど、お願いいいたします。(ぺこり)
●『バクマン。』と『DEATH NOTE』を比較して語る物語の「テンポ」と「密度」 『バクマン。』1巻書評
●『バクマン。』と『まんが道』と『タッチ』と。 『バクマン。』2巻書評
●『バクマン。』が描く現代の「天才」 『バクマン。』3巻書評
●編集者という「コーチ」と、現代の「コーチング」 『バクマン。』4巻書評
●漫画家で「在る」ということ。 『バクマン。』5巻書評
●病という「試練」。『バクマン』6巻書評
●嵐の予兆。『バクマン』7巻書評
●キャラクター漫画における「2周目」 『バクマン。』8巻書評
●「ギャグマンガ家」の苦悩 『バクマン。』9巻書評
●「集大成」への道のり 『バクマン。』10巻書評
●第一部、完。 『バクマン。』11巻書評
●「創造」と「表現」 『バクマン。』12巻書評
●スポーツ漫画のメソッドで描くことの限界について考察してみる。 『バクマン。』13巻書評
●七峰という『タッチ』の吉田ポジション。 『バクマン。』14巻書評
●「試練」と「爽快感」 『バクマン。』15巻書評
●天才と孤独と孤高と。『バクマン。』16巻書評
●リベンジと伏線と。 『バクマン。』17巻書評
- 作者: グロービス・マネジメント・インスティテュート
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- 作者: 山野車輪
- 出版社/メーカー: 辰巳出版
- 発売日: 2011/05/30
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