片山まさゆき『打姫オバカミーコ』を振り返る

打姫オバカミーコ (1) (近代麻雀コミックス)

打姫オバカミーコ (1) (近代麻雀コミックス)

片山まさゆき麻雀漫画列伝 - 三軒茶屋 別館
昨日は片山まさゆきの「これまでの」麻雀漫画についてご紹介しましたが、いよいよ本題の『打姫オバカミーコ』について語ってみたいと思います。

あらすじ

風王杯を制したプロ雀士・波溜晴(なみだめ・はる)、しかし妻に優勝を告げたと同時に離婚を切り出される。退会届を出したあと麻雀から縁を切ろうと馴染みの雀荘で最後の半荘を打つ波溜だが、そこで女流雀士・丘葉美唯子(おかば・みいこ)に出会う。
麻雀の実力がなく負けてばかりのミーコにレクチャーを依頼された波溜は、彼女の熱意にほだされ師匠をかってでると同時に、再びプロ雀士として歩み出すことになる。。。
というお話です。

打姫オバカミーコ』のここが面白い

全15巻と片山まさゆき漫画史上最長の漫画となりましたが、この漫画には様々な目新しさやおもしろさがありました。

初心者〜中級者向けの実用書である

物語として、「教えるもの」波溜と「教えられるもの」ミーコの掛け合いを軸としているのですが、波溜のレクチャーには初心者だけではなく中級者でもためになります。


作者は、1巻のあとがきでこう語っています。

これを読め!と自信をもっていえる戦術書がどこにもない!
俺が自ら描く!

将棋であれば囲いや詰め方など、過去から積み重ねられた戦術により初心者が強くなるための道筋はある程度豊富だと思います。一方、麻雀はこれといった戦術がなく*1、初心者でも運があれば上級者と渡り合えてしまう一方で初級者が「強くなった」と思える状態がわかりにくいゲームでもあります。
そういった人たちのニーズに応えたこの漫画は、漫画でありながら麻雀実用書でもあると言えます。

女性が主人公である

打姫オバカミーコ』は、主人公が丘葉美唯子という女流プロ雀士です。
連載当時は女流雀士がある種ブームのようになっていたこともあり、時代のトレンドをとらえた作品です。内容としても女流プロ雀士のライバルが多く登場しこれまでのむさくるしい(笑)世界とは若干異なる華やかな漫画になっています。
一方で、これまでの片山まさゆき漫画を踏襲するかのように、弱者*2が成長し「強者」に立ち向かうというわかりやすく且つカタルシスあふれるストーリーであり、ベタではありますが安心して読める内容です。

教える者と教えられる者の物語である

そして最大の要素が、この物語は波溜とミーコの師弟関係を軸にしているという点です。
実力がなくダメダメだったミーコが成長する様子は強者が勝つのとはまた異なったカタルシスを味わえますし、ミーコに教えることでまた師匠である波溜が人間的に成長していく様子は、1+1の物語を10にも100にも豊かにします。
人にものを教える難しさ、というのは教えたことがある人なら誰しも経験する苦労ですが、この漫画ではその苦労をネタとして昇華すると同時に読者に考えさせる種として機能しています。
打姫オバカミーコ』は極言すれば、教える者と教えられるものの物語であると言えるのではないかと思います。

まとめ

打姫オバカミーコ』は、これまでの片山まさゆき作品に共通するコミカルさを引き継ぎながらも、初心者から中級者まで勉強になる実用的な要素が満載の作品でした。
正直、「プロの一打一打はここまで考えて打っているのか」と、ひぐちアサ『大きく振りかぶって』を読んだときのような衝撃を受けた部分もありますし、「全て身につけるのは無理だとしても参考になる」部分は多々ありました。
物語としても、波溜とミーコの師弟関係を軸に山あり谷ありで楽しめました。
幕引きもベタながら大団円と言えるものですし、なにより「麻雀」そのものがしっかり描き込まれています。*3

20年前「スーパーズガン」のあとがきで、これを超える作品は描けないだろうと自分で書きました。
でも今「打姫オバカミーコ」を描き終えて僕は思います。これが自分の代表作だと。
(15巻あとがきより)

幅広い人にお勧めできる、まさに片山まさゆき麻雀漫画史上に残る作品だと思います。



本文はここで終わりになりますが、『打姫オバカミーコ』には初心者から中級者まで「ほおー」と思うような名言が多々あります。
明日は、蛇足ながらこれらの名言をご紹介したいと思います。

*1:デジタル論が優勢なのは戦術をシステム化できるという要素が強いのだと思います。

*2:実力的に

*3:他の競技(ゲーム)でも代替可能な麻雀漫画「ではない」、という意味です。