『ミサイルマン』(平山夢明/光文社文庫)
- 作者: 平山夢明
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/02/09
- メディア: 文庫
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同作者の短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』に比べればグロ描写は減っているので、そちらよりは読みやすいかもしれません。ただし、比べれば、というだけであって鬼畜なのは変わりませんけどね(苦笑)。
以下、短編ごとの雑感。
テロルの創世
三番街(サード・アベニュー)や五番街(フィフス・アベニュー)といった、わたしが死んでも代わりはいるもの的な世界が舞台の物語。SF的な着想としては平凡かもですが、お仕着せの懐古趣味とテロルとを巧みに組み合わせた構成が巧みです。
Necksucker Blues
美女と野獣、あるいは注文の多い吸血鬼。ストーリー自体はやはり平凡なものではありますが、その中で交換される感情と交歓される欲望の描かれっぷりがシンプルながらも印象に残ります。グロ描写もさることながら、それだけ読み手の心を抉るものがあるということだと思います。
枷
「う〜む。物語では何でも起きるでしょう? それこそ常識なんか通じない世界。それを本物として演ずるにはいくつもの障害を乗り越えなくちゃならないの。馬鹿らしいとか自分はそんなことはしないとか、そういった傍観者的な拒否反応をひとつひとつ自分の体験で翻訳し直しながら当事者として参加し、やがては役の感覚を把握するという技術なの」
(本書p154より)
本作は「あなた」という二人称による語り*1が試みられていますが、その意図は上記のような自己の体験に基づく翻訳を読者に勧めるためのものだといえます。ただ、その翻訳の対象となるのが殺人者で、しかもその殺人の目的が徹底した破壊死への欲求を満たすためというのが何とも……。
それでもおまえは俺のハニー
亡くなった息子と会話をするために聴覚をなくして聴こえない電話を待つ女と、そんな女に拾われた男との時を越えた(?)純愛ストーリー。黒電話が何台も並んでいるという光景、電話に出なければならないというプレッシャーは、携帯電話がこれだけ普及したご時世にあって若い人にどれだけ伝わるでしょうか?(笑)
或る彼岸の接近
〈ん狂い……朽ちぅ取るぅ家うが殴るふた軍……〉
(本書p224より)
クトゥルフかよ(苦笑)。それはともかく、異界による現実の侵食と、それによって幻想面のみならず生活面で追い詰められていく過程には読んでて嫌な汗が出てきます。
ミサイルマン
「THE HIGH-LOWS」の”ミサイルマン”のメロディに乗った俺とシゲと二人の不良の青春友情ストーリー。ただし、やってることは女をさらっては殺して埋めて……。ホントに嫌な話なのに読ませる話になっているのが憎たらしいです。