菊池寛・浅田次郎・阿佐田哲也の語る「ギャンブル論」
当blogにも競馬予想コーナーがあるとおり、フジモリは競馬をはじめギャンブルを多少、というより多々(笑)嗜んでおります。本館では競馬論を語ったり(現在はコンテンツが残っていませんが)麻雀論も書いたりしていました。読み返すと青臭さ全開でけっこう恥ずかしいですが、「あのころはこう考えていたんだ」とそれなりに面白かったりもします。
同様に、著名な作家たちもギャンブルについて様々語っています。
今回は菊池寛・浅田次郎・阿佐田哲也の3名の作家のギャンブル論をご紹介します。
菊池寛
『父帰る』『真珠夫人』などの作品が有名で、芥川賞、直木賞の設立者でもある菊池寛。
wikipediaにも書かれていますが彼は麻雀や競馬に熱中しており、特に競馬では馬主だったりしてました。JRAのHPには、「我が馬券哲学」という菊池寛のコラムがあります。
その中からいくつかご紹介を。
馬券は尚お禅機の如し、容易に悟りがたし、ただ大損をせざるを以て、念とすべし。
いきなり「損しないように」とか言っちゃってます(笑)。でもまあ、後でご紹介する色川武大の「9勝6敗論」にも通じるところがあるんですよね。*1
とは言うものの、菊池寛は結構な穴党です。
甲馬、乙馬人気比敵し、しかも実力比敵し、いずれが勝つか分らず、かかる場合は却って第三人気の大穴を狙うにしかず。
損を怖れ、本命々々と買う人あり、しかし損がそれ程恐しいなら、馬券などやらざるに如かず。
さっきと言ってること違いますよー(笑)。
ともあれ、この「我が馬券哲学」は全文面白いので是非ご一読ください。
浅田次郎
『鉄道員』『蒼穹の昴』など有名な直木賞作家、浅田次郎。この人もギャンブル好きで、、『カッシーノ!』などのエッセイを書いています。
また、『競馬どんぶり』というエッセイでは独自の「競馬哲学」を論じています。なにせ、「30年やって初めて競馬を語りなさい」なんて言ってるぐらいですから。
これはもっとも基本的なことですが、競馬場に行く時には、身なりをきれいにして行くというのも実は大切なことだと思います。
ジーパンはいてTシャツ着てスニーカーはいて、それはそれでいいですよ。
でもそのなりで百万円は持って帰れないでしょう。物理的にも持って帰れないし、入れるところもない。またそういう人間が持っていたらおかしいですよ。
これは縁起ではなくて、その人は最初から百万円勝つような競馬はしないはず。これは大事なことです。
(浅田次郎『競馬どんぶり』p64)
これは、けっこうハッとさせられる哲学です。「はじめから勝つつもりでやらないギャンブルは負ける」襟を正させる一言だと思います。後述する「雀聖」阿佐田哲也も、
麻雀は戦争である。戦争であるからには負ければ破滅だ。是が非でも勝たねばならぬ。そう思い給え。勝っても負けてもどうでもよい麻雀なんて第一面白くない。
(中略)
勝たねばならぬ。
そして、勝つ可能性もある。
まず、じっくり腰をおちつけて、この二つを、深く心に入れよう。
(阿佐田哲也『Aクラス麻雀』p30)
「勝つつもりで勝負する」ことの重要性を語っています。
浅田次郎は同書『競馬どんぶり』内でこの他にも「オッズは見るな」とか「複勝を買うぐらいなら単勝を買え*2など独自の競馬論を語っています。この本も競馬好きにはオススメです。
阿佐田哲也(色川武大)
『麻雀放浪記』でおなじみの「坊や哲」「雀聖」こと阿佐田哲也(色川武大)。麻雀という「賭博」を「カルチャー」に仕立て上げた第一人者であり、またギャンブルの悉くを知っている人物でもあります。
ギャンブルをする人なら聞いたことがある、「9勝6敗を狙え。8勝7敗では寂しい。10勝を狙うと無理がでる」という「9勝6敗論」(参考:色川武大-wikipedia)もこの人の言葉です。
これは先ほどの「戦うからには勝ちに行け」という言葉と矛盾するように見えますが、そうではありません。
フォームというものはけっして全勝を狙うためのものではないんだ。六分四分、たとえわずかでも、いつも、どんなときでも、これを守っていれば勝ち越せるという方法、それをつかむことなんだ。
(中略)
九勝六敗の、六敗の方がむずかしい。適当な負け星を選定するということは、つまり、おお負け越しになるような負け星を避けていく、ということでもあるんだね。
(ちくま文庫『色川武大・阿佐田哲也エッセイズ1P48〜52)
大きく勝とうとせず、いかに致命傷を避けるか。ギャンブル論ではなく、人生論にも通じるところがあります。
今回は3名の作家の「ギャンブル論」についてご紹介しました。それぞれ立場は異なるもの、結構似たようなことを言っているなど「ギャンブル論」として非常に参考になる部分があります。まあ、ギャンブルなんてやらないに越したことは無いのですが(笑)興味ある方はご参考にしてみてください。
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