『赤々煉恋』(朱川湊人/創元推理文庫)
- 作者: 朱川湊人
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/01/30
- メディア: 文庫
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ということで、本記事内においては本書を短編集として把握して紹介することにしますが、とはいったものの、本書に収録されている各短編には雰囲気というレベルではありますが共通するものを感じるのも確かです。本書をジャンル分けするとまずはホラー・恐怖小説集ということになるでしょうが、「怖いもの見たさ」という言葉もあるように、ホラーにおいては「見る」という観察の目線が基本となります。ところが本書の場合には、そうした基本が踏まえられつつも、いつのまにか「見られている」という被観察者としての目線の発生、位相・立ち位置の変化が生じてきます。”読書”という孤独な行為において「見られている」という感覚が生まれてくること自体、一種の恐怖体験といえるでしょう。ですが、そこには恐怖以外の安らぎや充足感といったものがあるのも確かです。
「離見の見」という言葉がありますが、我を殺すことが求められる現代のストレス社会においては、殺されている我と、それを見つめている我の両方の我を否応なく意識せずにはいられない世の中だといえると思います。だからこそ、「離見」のみならず「離見の見」にまでアプローチを図ってくる物語は、例えそれが「恐怖」という感情を運んでくるものであったとしても、そこには自然と共感が生まれてくる、ということではないのかと思ったりしました。
以下、各短編の雑感を。
〈死体写真師〉。死んだ妹の写真を撮って欲しいと願う姉の想いが、写真のネガポジのごとく暗転します。美しくも醜悪、残酷ながらもどこか滑稽な結末が印象に残ります。
〈レイニー・エレーン〉。出会い系サイトを通じて幾人もの女と肌を重ねる男が求めるものは? 正直あまり好きな作品ではありません(苦笑)。
〈アタシの、いちばん、ほしいもの〉。本書収録作品の白眉。「レイニー・エレーン」と同じような趣向が試みられていますが、本作の方が断然上だと思います(だからこそ「レイニー・エレーン」への評価がどうしても辛口になってしまう、というのはあります)。
〈私はフランセス〉。巻末の明神ちさとの解説によれば、本書が単行本で刊行されたときに、いわゆるマイノリティに属する読者からの支持がとても多かったそうですが、だとすれば、本作はまさに直球ど真ん中ということになるのでしょうね。
〈いつか、静かの海に〉。郷愁たっぷりに語られる思い出話は、幻想と惨劇との狭間の物語。陰鬱な情念と切なさとが入り混じる結末の余韻は本書の最後を飾る作品として相応しいと思います。