『アクセル・ワールド〈4〉蒼空への飛翔』(川原礫/電撃文庫)

アクセル・ワールド〈4〉蒼空への飛翔 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈4〉蒼空への飛翔 (電撃文庫)

「……小学生の頃、ぼくは新作のゲームを買うとすぐに攻略サイトを見てた。アクション系だけじゃない、RPGすらチャートの窓と並べてプレイして、それで冒険してる気になってた。だから、攻略法どころかマニュアルすら存在しないこの《ブレイン・バースト》は不安で仕方なかったよ。バックドア・プログラムなんて物に頼ったのはそのせいだったのかもしれないって、今になって思う――でも、ぼくはようやく解ったんだ。お仕着せの展開なんて、このゲームには存在しない。何もかも自分で切り開いていかなきゃいけないんだ」
(本書p50より)

 ゲームとしてお仕着せの展開を否定する一方で、物語自体はまさに王道といった展開を見せているのが本書の面白いところだといえますか。しかし、ここまで真正直な友情を軸としたストーリー展開はいまどき逆に珍しいような気もしないでもないです*1。やはり友情・努力・勝利といった王道には普遍的な魅力があるということなのでしょう。
 3巻で明らかになった《心意システム》ですが、本書でさっそく歯止めがかけられました。無敵に近いシステムだと思われましたが、限界やデメリットといった負の側面が明らかとなり制約がかかることになれば、当初に危惧したようなゲーム性の崩壊は避けられることでしょう。また、アバターの特徴・《心意システム》の発動にはプレイヤーの心の傷・トラウマが強く関係しているという設定によって、プレイヤーのメンタル面が極めて大事になってきますし、物語におけるゲーム世界と現実世界との関係性もより充実したものになることが予想されます。
 ただ、確かにマニュアルのないゲームというのはプレイヤーとしては面白いと思いますが、読者としては、後付けめいた設定が明らかとなることで物語が次の展開を迎えるようなプロットにはアンフェア感が拭えなくて、そこにゲーム性との齟齬を感じないでもないです。なので、そろそろハルユキ(つまりは読者)にも《ブレイン・バースト》の世界について、現時点で明らかになっている情報をきちんと把握させてあげてください(笑)。
 世界観という観点からですと、本書では《ブレイン・バースト》のみならず近未来の現実世界の描写にかなり筆が割かれています。個人的にはこうした未来像についての描写のほうがゲーム世界のそれより面白く思ったくらいです。「ゲームとはいったい何なのか?」という問いは、おそらくは「現実とはいったい何なのか?」という問いと表裏の関係にあるでしょう。ゲーム世界と現実世界の描写のバランスをとるのは難しいと思いますが、その点、本シリーズは巧みだと思います。
 登場人物や仲間、敵対する人物や組織、さらにはゲームについての謎など、風呂敷は広がる一方ですが、それが今後どのように畳まれていくのか。本のページが減っていってなくなったときにどのような満足感を与えてくれるのか。続きを楽しみにしたいと思います。
■『惑星のさみだれ』既読者向けの蛇足:心意技に名前を付けるあたりの下りには少しニヤリと。あと、(ネタばれ伏字)「シトロン・コール」って「パンドラ(因果乱流)」ですよね(笑)。(ココまで)
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*1:もっとも、”膝の上に置かれたままのタクムの手を、今度はハルユキが握った。”(p92より)といった場面などは、その筋の人が妄想しちゃうととんでもないことになりそうですが(笑)。