『アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者』(川原礫/電撃文庫)

アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者 (電撃文庫)

 巻末のあとがきでも述べられていますが、本書から新たに《心意システム》なる設定が明らかになりました。提示されたシステムをときに超越してしまう《気合》や《奇跡》といったものを取り込むための試みとして、想像力や意志力を具体的なゲームの勝敗要素として盛り込んだもの、とのことです。
 そもそもゲームとは何か?という点について様々な考え方があるでしょう。ですが、本作についていえば、ニューロリンカーは無線量子信号によって装着者の脳と直接交信しているわけですから、一見すると《気合》に見えるものであったとしても、それこそ集中による反射速度の上昇などといったそれっぽい理屈で説明することは可能なように思います。加えて、勝負事である以上、メンタルの重要性自体は否定されるべきものでもないでしょう。
 《奇跡》と呼ばれる現象で勝敗が付くのは、確かに納得がいかないかもしれません。ですが、そもそも《ブレイン・バースト》とはいったい何なのでしょう?囲碁や将棋といった完全情報ゲームと違って、《ブレイン・バースト》は未だに謎の多いゲームです。適当に入れたコマンドで謎の必殺技が発動したとしても、理不尽かもしれませんが、でもそれは別に不思議なことではないですよね。
 というわけで、何も《心意システム》などといった設定を持ち出してそれらの要素を早急にシステムに取り込む必要はなかったように思うのです。そんな余計な心配を抱いてしまう背景には、この先果たして本シリーズはゲーム小説としての体裁を保っていくことができるのか、といった危惧があります。別にゲーム小説である必要性もないといえばないのですが、それでも、初期の頃に感じられた「こだわり」は大事にして欲しいと思うのです。それに、ルールやシステムといった枷がなくなってしまうと、本当にただのバトルものになってしまいかねない、とも思うのです。もっとも、もしかしたら「ただのバトルもの」なんて表現ではすまない突き抜けたものになるかもしれないので余計なお節介かもしれませんけどね。いずれにしても、本作については、ゲーム小説といった観点から引き続き注視しながら読んでいきたいと思います。
 ハルユキたちが進級して、チユリがバーストリンカーになるまでは予想通りの展開でしたが、チユリのアバターが持つ特殊能力と、新たに登場した悪役の策略には意表を突かれました。いや、策略と呼べるほど褒められたものでは断じてありません。ですが、昨今のライトノベルにしろ漫画やアニメにしろ、女性キャラの裸を見たり見られたりといったシーンが割と気軽に出てくる傾向にありますが、それって普通に考えればこれくらいにやばいことなんだよなぁと、そんな当たり前のことをしみじみと感じました(笑)。
 ゲームと現実との策謀や駆け引きが絡み合って、本書は非常に気になる終わり方となっています。いったい何がどうなっているのか? 何ともフラストレーションの溜まる卑怯な終わり方です。これでは続きを読むしかないじゃないですか(笑)。ということで、4巻に期待です。
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