『アクセル・ワールド〈5〉星影の浮き橋』(川原礫/電撃文庫)

アクセル・ワールド〈5〉星影の浮き橋 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈5〉星影の浮き橋 (電撃文庫)

――――これが《対戦》。何もかもを忘れ、ただデュアルアバターと一体化し、思うがままに動けばいい。たとえたった一・八秒で終わる触れ合いだとしても……無心の《対戦》はきっと何かを残す。何かを与えてくれる……。
(本書p176より)

 なんというハーレム展開(笑)。
 とはいえ、こうした展開は、「ゲームとは何か?」というテーマからするとそれなりに必然性があるのも確かです。というのも、ゲームはときにコミュニケーション・ツールでもあるからです。伝統的対戦ゲームである将棋では、ときに「棋は対話なり」といわれることがあります。これは別に会話をしながら指すというわけではありません*1。将棋は一手一手交互に指していくゲームですが、相手が指した手の意味を考えて読み取って、自分なりの答えを出した上でそれに応じた手を指します。すると相手もまた同じようにこちらの考えを読み取ってさらにその上を行こうとしてきます。そうした読みの戦いは、ときに言葉を交わす以上に濃密な情報のやりとりを行なうことを可能にします。互いに相手を倒すことを目的としつつ、その戦いの最中には確かに交歓があります。それが将棋の醍醐味です。同じことは今の対戦ゲームにも、そしてこの《ブレイン・バースト》についてもいえるはずです。
 しかし、そんな小難しいこと考えずとも、共通の話題、共通の空間、共通の時間といったものから人と人の間の関係性、いってしまえば絆が生まれるのは至極当然のことだといえるでしょう。ただ、《ブレイン・バースト》というゲームについて、シリーズ当初はもっと刹那的で殺伐としたゲームだと個人的には思っていましたので、本巻のような展開はやはり少々意外ではあります。まあ、これはこれで面白いですけどね。ただ、ゲームをみんなで楽しく続けながらも、やはりいつかはクリアして終わらせるんだという目標は忘れて欲しくないです。それがシリーズ全体に緊張感を生むことにつながるとも思うのです(そういう意味で、私は本シリーズの長期化は根本的には望んでいません)。
 もっとも、ストーリーはこれからいよいよ大きく動き出しそうな予感もします。そろそろ王同士の戦いがみたいかなぁ……。とこっそり期待しつつ続きを楽しみにしたいと思います。
【関連】
『アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還』(川原轢/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館
『アクセル・ワールド〈2〉紅の暴風姫』(川原礫/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館
『アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者』(川原礫/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館
『アクセル・ワールド〈4〉蒼空への飛翔』(川原礫/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館
『アクセル・ワールド〈6〉浄火の神子』(川原礫/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館
『アクセル・ワールド〈7〉災禍の鎧』(川原礫/電撃文庫) - 三軒茶屋 別館

*1:お喋りしながら将棋を指すのもそれはそれで楽しいですけどね(笑)。