秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その7:造物主を亡ぼす男)
- 作者: 新城カズマ
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
- 発売日: 2009/08/08
- メディア: 単行本
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前回までのまとめを置いておきますので今回から参加された方は読んでおいてくださいねー。
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」 - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その0:概論) - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その1:さまよえる跛行者) - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その2:塔の中の姫君) - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その3:二つの顔をもつ男) - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その4:武装戦闘美女) - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その5:時空を超える恋人たち) - 三軒茶屋 別館
●秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その6:あぶない賢者) - 三軒茶屋 別館
さて、最終講義となる今回のキャラクタ(=物語)類型は、「造物主を亡ぼす男」です。
造物主(=創造主)に造られた対象が、その造物主に立ち向かい、亡ぼすという物語です。
いわゆる「神殺し」「親殺し」というジャンルはこれに類するものと思われます。
「造物主」とは古来は「神」であり、「神」に造られた「人」が「神」に立ち向かう作品としては、どちらかといえば「ゲーム(特にRPG)」に多いかと思います。
ラスボスが「神」というゲームは多々ありますし、作品のスケールと敵の強さ(存在)が比例する傾向にあるRPGというジャンルでは、最終的に自らを生み出した存在を倒す展開が、ある意味「王道」だと言えます。
ラスボスが「神」というRPGといって真っ先に思い浮かぶのは、スクウェア(現スクウェア・エニックス)が1989年にゲームボーイで発売した「魔界塔士Sa・Ga」が有名です。ゲームボーイという限られた容量とドット絵の世界で独特の世界観を紡ぎだした本作品の評価は高く、スクエア作品では一番最初にミリオンセラーとなりました。(wikipediaより)
また、この作品ではまさに「神殺し」の武器が存在していまして、googleなどで「神殺し チェーンソー」などと調べると神殺しの武器をパロディにしたさまざまな作品が見られて面白いかと思います。
漫画で「神殺し」を取り扱う作品では、田辺イエロウ『結界師』が挙げられます。
もともとは結界師である主人公が、烏森学園を舞台に、『結界術』を使い烏森の力を狙う妖怪を退治していく物語でしたが、「烏森」という「神佑地(=神の住まいし場所)」の謎を明らかにしていくにつれ、土地神と呼ばれる「神」を殺す人物たちが登場していき、物語のスケールも広大になっていきます。
(wikipediaより)
「神」というものの「土地神」という多神教に基づく「神殺し」の物語ではありますが、現代の「神殺し」を取り扱った作品として注目すべき漫画だと思います。
「造物主を亡ぼす男」において、「神殺し」という「造物主」を「神」とする作品がある一方、「人」によって「造られた」対象も存在します。「造る」技術が「科学」であればフランケンシュタインに代表される「人造人間」となり、「魔術」であれば「ホムンクルス」となるでしょう。「造られたもの」が「造ったもの(=人間)」を亡ぼす物語。前者の代表作はメアリー・シェリー『フランケンシュタイン』、後者では荒川弘「鋼の錬金術師」が思い浮かびます。
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「造られしもの」は前回講義しました「あぶない賢者」によって造られる場合が多いです。前述の「フランケンシュタイン」はまさにこのパターンであり、「あぶない賢者」と「造物主を亡ぼす男」もまた主従に密接に結びついている関係だと思います。
また、「造られしもの」という存在は現代においては「ロボット」がその役割を担い、多くのSF作品で見られます。
主人公を「人」に据えたときに、「亡ぼす」場合は相手が「神」であり、「滅ぼされる」ことを阻むため対象を「倒す」場合は相手がロボットとなる。フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作とした映画『ブレードランナー』はまさに「造物主を亡ぼす男」に立ち向かう主人公の物語でした。
2019年、地球環境の悪化により人類の大半は宇宙に移住し、地球に残った人々は人口過密の高層ビル群が立ち並ぶ都市部での生活を強いられていた。宇宙開拓の前線では遺伝子工学により開発されたレプリカントと呼ばれる人造人間が、奴隷として過酷な作業に従事していた。レプリカントは、外見上は本物の人間と全く見分けがつかないが、過去の人生経験が無いために「感情移入」する能力が欠如していた。ところが製造から数年経てば彼らにも感情が芽生え、人間に反旗を翻す事態にまで発展した。しばしば反乱を起こし人間社会に紛れ込む彼等を「処刑」するために結成されたのが、専任捜査官“ブレードランナー”である。
タイレル社が開発した最新レプリカント"ネクサス6型"の男女6名が人間を殺害し脱走。シャトルを奪い、密かに地球に帰還し潜伏していた。人間そっくりなレプリカントを処刑するという自らの職に疑問を抱き、ブレードランナーをリタイアしていたデッカードだったが、その優秀な能力ゆえに元上司ブライアントから現場復帰を強要される。捜査の為にレプリカントの開発者であるタイレル博士に面会に行くが、タイレルの秘書レイチェルの謎めいた魅力に惹かれていく。
レプリカントを狩ってゆくデッカードだが、やがて最後に残った脱走グループのリーダーであるバッティとの対決の中で、彼らが地球に来た真の目的を知る事になる。
(wikipediaより)
造物主、創造主への叛旗は、言うなれば水車を下から上に上げる行為でもあります。「下克上」「主従逆転」といった物語もこれに類しますし、「成り上がり」というのもこの系譜に位置するかと思われます。
水車の理論と同じく、その上下に開きがあればあるほど逆転があったときの読者のカタルシスは増大することでしょう。
最後に、この「造物主を亡ぼす男」の系譜として追加したい物語として、「メタ」というジャンルの話を。
「作者」という「造物主」を意識し、あるときはそれに叛旗を翻しあるときは「作品の登場人物」という「造られた」存在を飛び越えようとする「造られし者=登場人物」たち。
「メタ」をテーマとした小説としては、谷川流『学校を出よう!』が、「メタ」を意識しつつ、単なる「作者と登場人物」という関係ではないところが非常によくできている作品だと思います。
●三軒茶屋別館 プチ書評 『学校を出よう! 1』
●三軒茶屋別館 プチ書評 『学校を出よう! 2』
●三軒茶屋別館 プチ書評 『学校を出よう! 3』
●三軒茶屋別館 プチ書評 『学校を出よう! 4』
●三軒茶屋別館 プチ書評 『学校を出よう! 5・6』
「造られしもの」もまた、時代の流れを反映し生まれていく題材なのかと思います。
「造物主を亡ぼす男」という物語を語るときに、「人」を中心点に据えると「亡ぼす」場合は造物主を「神」、あるいは「神に類する存在」とし、「滅ぼされる」場合は造物主が人間となり、造りし者は「人造人間」「ロボット」「ホムンクルス」といった存在になります。
また、「物語」という観点からすると「造物主」を「作者」とおき、「造られし者=登場人物」が「作者、あるいは作中世界」を飛び越える行為が「造物主を亡ぼす」に読み替えられると思います。
主従の逆転というシンプルな元素はあるにせよ、もっとも複雑な構造を秘めている「物語」、それが「造物主を亡ぼす男」なのかもしれません。
…というわけで、長々と語ってまいりました「よくわかる「物語工学論」」、いかがだったでしょうか。
よくわからなかった方はごめんなさいですが、元テキストである『物語工学論』を、フジモリなりに消化した内容として実際の作品を取り上げてみましたが、読み込めば読みこむほどこの「7つの類型」の奥深さに気づかされ、また「過去から現在への物語の系譜」について考えさせられる内容でした。
後日補講を行いますが、いったんこの集中講義は終了といたします。
長らくのご清聴、まことにありがとうございました。(ぺこり)
また次回ありましたらお会いしましょう。
…あ、レポートについては後日学内掲示板に張っておくので締め切りをしっかり守るようにー
(キーンコーンカーンコーン)