秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その4:武装戦闘美女)

物語工学論

物語工学論

はーいひさしぶりー。
みんな連休ボケしてない?
私が今、まさにそれ!
…はぁ…、だっるぅー。

というわけで前回までのあらすじをどうぞ。
秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」 - 三軒茶屋 別館
秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その0:概論) - 三軒茶屋 別館
秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その1:さまよえる跛行者) - 三軒茶屋 別館
秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その2:塔の中の姫君) - 三軒茶屋 別館
秋期集中講義 よくわかる「物語工学論」(その3:二つの顔をもつ男) - 三軒茶屋 別館
では、今回の講義に入ります。

武装戦闘少女」も、一見すれば「名は体を表す」キャラクタ類型です。
神話の世界から脈々と登場する「戦う女性」。
「二つの顔をもつ男」が「対照的なAとBという属性を行き来する」という構造なのに対し、「武装戦闘少女」は対照的なAとBを「同時に持つ」のが特徴です。
古来より、「戦う」という役割は主に「男性」が担っていました。その「戦う」役割を「女性」が行う。ここで、落差による「水車」が発動し、物語の原動力となります。
「二つの顔をもつ男」の対照的な属性AとBは、いわばコインの「表裏」であり、決して同時に存在するものではありませんでした。
武装戦闘少女」はそれとは異なり、「AなのにB」という「同時に持つ」ことで新たなギャップを生み出しているのです。
武装戦闘少女もまた、古今東西さまざまな物語がありますが、今回の講義では例として高橋しん最終兵器彼女』を挙げます。

北海道小樽市(市名についてはあえて言及していない)で暮らすシュウジとちせ。ちせは以前から好意を持っていたシュウジに度胸試しとして告白、そのぎこちない交際は交換日記から始まった。
そんなある日、謎の敵に札幌市が空襲される。攻撃から逃げるシュウジが見た物、それは腕を巨大な武器に変え、背から鋼鉄の羽根を生やした兵器と化して敵と戦うちせの姿であった。
国籍不明の軍隊との戦争が激化していくにつれちせは兵器としての性能が向上していくが、故障をきっかけに肉体も精神も人間とは程遠いものとなってしまった。
wikipediaより

「最終兵器」である「ちせ」はまさしく、「兵器」と「彼女」という二極を内包しています。前回の講義で説明しました「二つの顔をもつ男」と地続き(「AまたはB」という存在)でありながら、AとBを同時に存在させ、それがまた「ちせ」や「シュウジ」の苦悩となっています。『最終兵器彼女』は、いわゆる「セカイ系」と呼ばれることもあります。「個人」と「セカイ」という対立する(あるいは矛盾する)存在を「一つの物語」に同時に存在させることから生まれる物語は、物語自身が「武装戦闘少女(=対立するAとBが同時に存在する)」であり、まさに「物語=キャラクタ」を提唱する「物語工学論」を裏付けするのに過分ないサンプルだとも言えるでしょう。
対立するAとBが同時に存在すること自体が「ギャップ」であり、落差による水車となっていますが、実際のところ現代の受け手は「矛盾の内包」自体にあまり違和感を感じない、という流れを感じます。それは、「Aの可能性もBの可能性も存在する」いわゆる「並行世界もの」というジャンルが一つのジャンルとして定着してきたことも一つの要因だと考えています。
「AなのにB」というギャップとしては、「しゃべる犬」「義賊」「雨に濡れてる子犬を拾う不良」など本来同時に存在しない属性を掛け持つことで生まれるキャラクタとしてひとつの新たな「属性」となっています。
「二つの顔をもつ男」と同じく、AとBとの間にギャップがあればあるほど落差は生まれますが、やはり王道となるのは「戦う女性」。これはまた、「スポーツ少女」という系譜に枝分かれしたり、フジモリが以前記事にしました「チューバ娘」などの亜種に進化したりもします。
チューバ娘に花束を - 三軒茶屋 別館
武装戦闘少女の系譜については、ササキバラゴウ〈美少女〉の現代史―「萌え」とキャラクター』でも詳しく記されています。

美少女キャラクターが主人公の「動機付け」となる一方で、宮崎駿のアニメをはじめとする「戦う美少女」の勃興といった「無敵性」をもつ美少女の歴史についても同時に語っており、「萌え」の歴史とは美少女キャラクターの造詣の変化であると同時に、物語における「役割」の変化の歴史と対応するのかな、と思いました。

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武装戦闘少女の実例は、セーラームーンプリキュアなどそれこそ枚挙に暇がありませんが、もう一例、本講義では神坂一スレイヤーズ!』の主人公、リナ・インバースを説明します。
スレイヤーズ!』は新城カズマライトノベル「超」入門』でも説明ありましたが、「以前」「以後」と一つの時代の標となる作品です。彼女そのものも「武装戦闘少女」ですが、実は物語そのものも「武装戦闘少女」=「対照的なAとBが同時に存在する小説」でもあります。
「以前」のファンタジー作品としては、「コナン・ザ・グレート」のイメージ。すなわち、筋骨隆々の戦士が主人公。それを、『スレイヤーズ!』では、
男 → 女
戦士 → 魔法使い
筋骨隆々 → つるぺた
正義感あふれる → 悪党に人権なし
マッチョに敵を倒す → 頭を使った勝利(たまに運)
と主人公の属性を真逆にする、いわば「ファンタジーのパロディ」を意識した作品でした。
しかしながらそのスレイヤーズが「王道」となり、後続の作品に影響を与えたことは皮肉なことでもあります。
スレイヤーズ!』の舞台そのものは地についた骨太なものであり、クトゥルフ神話をモチーフにした世界観であり、そういった「骨太な世界観」に「魔法少女」という対照的な属性を同時に存在させるという、「武装戦闘少女」な物語構造でもあります。『スレイヤーズ!』はまさに、キャラクター=物語な作品なのです。
『スレイヤーズ!』とクトゥルフ神話 - 三軒茶屋 別館
しかしながら、「武装戦闘少女」が王道になってしまうと意外性が生まれません。「戦う女性」は実社会でも珍しくない存在になっており*1、「意外性」を持つ属性としてはいささか弱くなってきています。
新城カズマも語っているとおり、「AなのにB」とは双方に落差がある、という前提条件(社会環境)があればこそです。武装戦闘少女そのものがAという属性になっていくことはやむを得ないことかもしれません。
真逆な存在として存在するのが「女装男子」いわゆる「こんなかわいい子が女の子のはずがない」というキャラですが、これもまた旧来からある属性です。性差というわかりやすい対照が薄まりつつある現在、新たな「武装戦闘少女」がどのようになっていくのか、物語と社会そのものとの連動にもまた興味がわくところです。



武装戦闘少女」とは対照的なAとBが同時に存在することでの落差をもつ物語構造です。そしてそれはまた、「二つの顔をもつ男」と同じく「対照的なAとBとは何か?」という読み手の意識(先入観・価値観)をあぶりだす鏡とも言えます。今後の「武装戦闘少女」がどのような系譜をたどるかという点に注目してみるというのも「物語の楽しみ方」の一つだと言えるでしょう。

というわけで今回の講義はここまで。
あと3つのご紹介ですが、次は最重要講義「その5.時空を超える恋人たち」になります。
しっかりと以下テキストを読んで予習をしてきてくださいね。
バクマン。 1 (ジャンプコミックス)

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春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

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ラブロマ(1) (アフタヌーンKC)

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*1:とはいうものの安野モヨコ働きマン』を読めばわかるとおり、実社会でも未だ「男性を基本としたインフラ」が多々あることは事実ですが、ジェンダー論になってしまいますのでこれ以上の発言は避けることにします。