チューバ娘に花束を

チューバを吹く少女を主人公とした漫画が立て続けに発行され、個人的に「チューバ娘」ブームが起きている今日この頃。今回は、「なぜチューバ娘がステキなのか」について滔々と語ってみたいと思います。妄想垂れ流しのため湯あたり注意。

0.チューバ娘とは

チューバという楽器をご存知だろうか?
金管楽器。でかい、重い、音がやたらに低い。
金色の光沢を放つウミヘビがぐるぐるととぐろを巻いて、コンパクトに……まとまってるとは、とても言えない。身の丈一メートル余り、重量十キロ超。幼児よりも大きい。抱えればこちらにのしかかってくる。持って振り回せば、武器になること間違いない。(p5)

金管楽器で最大の大きさを誇る楽器、チューバ。そのチューバを吹く少女を当記事では「チューバ娘」と称することにします。
茂木大輔『オーケストラ楽器別人間学』では、チューバを吹く人のタイプを以下のように言い表しています。

あたかも地面が鳴動するかのような、オーケストラの低音域をゆるがす、きわめて力強い音色は、奏者に強い確信と、急進的な傾向をもたらす。また、発音は同一音域の全ての低音楽器を凌駕するほど鮮やかである。巨大な空気柱の振動を一瞬にしてスタートさせる超自然的な力を有しており、こうした力を操る奏者には、どこか神がかり的超越性がそなわる。(p81)
(中略)
性格面では内向的であり、一方でこうした日陰者の存在であることにたいする鬱積から、虚飾や表層的欺瞞にたいし、強い反発を抱いていることが多い。(p83)

(楽器別デートマニュアル/女性チューバ奏者の場合)
基本的にデートには行かない。めんどうくさいものと思っているらしい。行くならみんなで、とばかりに男女を引き連れて飲み会となる。とことん飲むのがわかっているので、自宅の近所で飲む。(p120)

【ご参考】茂木大輔『オーケストラ楽器別人間学』新潮文庫 - 三軒茶屋 別館
実際の楽団でのチューバ吹きの方々の性格や位置づけはともかく、漫画や小説での「チューバ娘」は結構共通点を持っています。
サンプルとなる主なチューバ娘については先日書きました以下の記事が参考になるかと思いますので併せてご参照ください。
私的チューバ娘ランキングベスト5 - 三軒茶屋 別館

1.ちっちゃな体に大きな楽器

チューバ娘たちの特長その1ですが、ほとんど背がちっちゃいです。*1
背の小ささ(や小さくなるキャラ)をネタにする『うらバン!』の鈴杉冬美について部長が

と語っていますが、この一言に全てが集約されていると思います。
ちっちゃい体に大きな楽器というのは、少女に大剣を持たせる戦闘美少女の美を彷彿とさせますが、こちらはあくまでチューバという平和な楽器。このミスマッチはそれだけで絵になるかと思います。

2.マイナーなポジション

いまだに根強いファンを持つ萌え属性「メガネ」ですが、「メガネキャラ」には「優等生(=頭がいい)」「委員長(=真面目)」という立ち位置のほかに、「名脇役」というポジションも持っていました。*2今では主役もメガネをかける時代であり*3、「メガネといえば脇役」というポジションは薄れつつあるものの、「メガネキャラ好き」の方々は「脇役」という立ち位置を愛でていた部分が少なからずあったかと思います。
同様に、「チューバ娘」は存在そのものが脇役です。「チューバ」という楽器そのものが低音でリズムを刻み音楽のベースとなる底音を奏でているため、自ら主役になる場面は少ない一方で、チューバの存在一つで音楽の「骨」が変わるといっても良いほどの重要な楽器です。「チューバ娘」は「チューバ」という楽器の立ち位置そのもののように、物語を支える「名脇役」として存在しています。
実際、『放課後ウインドオーケストラ』の桜井千砂もこう評されています。

『ひかるファンファーレ』はチューバ娘を主人公としていますが、「脇役を主人公にする」というギャップそのものが漫画の面白さの一つであることは事実だと思います。個人的には「いーなぁトランペットは。主旋律が吹けて」とイジけるシチュエーションにグッときます(笑)*4

3.チューバに誇りを持っている

ならば、私が、吹いてやる。
私の肺は空気を満たし、私の内腔はまっすぐにチューバに連なって天へと向いたベルまで一本の管となり、大気は音に変わって世界へと放たれるのだ。(P94)

上記文章はオビにも書かれていますが、フジモリの好きなフレーズの一つです。
チューバというマイナーなポジションながらも、いや、だからこそ、そのチューバに愛着と誇りを持っている。これがチューバ娘の特長です。
演奏中に目立つ場面などほとんどないチューバは、ある意味非常にストイックな楽器であり、チューバを吹くことにより「縁の下の力持ち」という自分の役割を受け入れ楽しめる性格に自然と形成されていくものと思われます。小説『チューバはうたう』の主人公に代表されるように、地味でゴツくて重たいチューバという楽器を、そのポジションも含め受け入れ、肯定し自らの生き方とする。そういった性格を持っているのが真の「チューバ娘」なのです。最後まで引用で恐縮ですがチューバ娘のチューバに対する愛情が込められているこの4コマは大好きです。



読者がひくぐらい熱く語ってしまい大変失礼しました(笑)。
「チューバ娘」とはいわゆる「ギャップ萌え」の一形態でありながらも、「音楽漫画」という素材をフルに活かした属性だなぁと考えられます。当然「脇役」キャラですのでブームになることもこれ以上増えることもないと思いますが、だが、それがいいのです。
長々と語ってきましたが、この記事を読んだ方の一人でもチューバ娘の魅力を知っていただいたり再確認していただければ非常に嬉しいです。
脳内嫁の残席に余裕のある方は、是非ともチューバ娘のご検討をよろしくお願いいたします(笑)。

*1:『小桧山中学吹奏楽部』の遠藤舞花は本編にはほとんど登場していませんが、巻末の設定表ではやはり背が一番小さく描かれていました。

*2:水木しげる作品に出てくる山田さんなど。

*3:絶望先生とか

*4:そのくせ主役になった瞬間にオドオドしてしまうとさらにグッときます(笑)