大事なのはフランス料理の材料じゃない、その精神です。

美味しんぼ (2) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (2) (ビッグコミックス)

 『美味しんぼ』の2巻第4話には「日本の素材」というお話が収録されています。フランスから高名な料理批評家ジャック・モレルが来日したということで、東京のフランス・レストランのシェフが集まって、フランスから取り寄せた材料を使って最高のフランス料理を作ります。しかしモレルはその料理を単なるコピーに過ぎないとしてこき下ろします。その場に居合わせた山岡はモレルに日本のフランス料理をもう一度食べてもらうようにお願いします。山岡は日本で手に入る最高の素材を使ったフランス料理を用意します。どんな料理を出したのかは実際に読んでもらうとして(笑)、それに感銘を受けたモレルが述べた言葉が、

 大事なのはフランス料理の材料じゃない、その精神です。
(『美味しんぼ』2巻p101より)

というわけです。さらに言えば、単にフランスの材料を使って料理をしただけではフランス料理にはならない、というわけです。「鼻持ちならないグルメ野郎が!」と思いつつも(笑)、しかしながら言いたいことはよく分かります。というのも、この本を読んで同じような感想を抱いたからです。

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)

 本書についてオブラートに包んだ表現をさせていただきますと、ゴミ以外の何者でもありません。買うのは金の無駄、読むのは時間の無駄、手許に置いておくのはスペースの無駄です。ネタとしても酷すぎます。……ってか、何がラヴ(クラフト)コメだ!ざけんな!ニャルラトホテプとかクトゥグアとかそれっぽい単語並べればクトゥルー神話になると思ったら大間違いだボケ!あとがきで東雅夫の『クトゥルー神話事典』に触れてるけど、それを読んでいるのなら以下の文章に心当たりがないとはいわせんぞ!

 もちろん、神話体系共有の”符丁”というべき固有アイテムを、さりげなく作中に紛れ込ませる”遊び”は、それこそ開祖ラヴクラフト以来の良き伝統ではあります。けれども、それはあくまでもさりげなく、作品の本筋から離れたところでなされるからこそ”遊び”であり”粋”なのであって、決してはじめにアイテムありき、、、、、、、、、、、ではないのです。安直に既成のアイテムに寄りかかった作品、読者の側に”共同幻想”への加担を無理強いするような作品は、クトゥルー神話の滑稽なパロディにはなりえても、コズミック・ホラーを体現する神話作品そのものには到底なりえないのです。
 あれほど積極的に、師ラヴクラフトが創造した神話アイテムを自作に導入しプロパガンダにつとめたダーレスが、神話作品執筆を志す若き日のラムジー・キャンベルに対して、安易に既成の神話アイテムに頼らず、オリジナルな神話世界を目指すように、とアドバイスした逸話を思い出してください。
(『クトゥルー神話事典(第三版)』p34より)

 というわけで、本書を可能な限り好意的に評価するとしても”滑稽なパロディ”が限度ですが、正直そんなの褒め過ぎで、他のパロディ作品に対して申し訳が立たないです。あとがきでは『デモンベイン』も引き合いに出されていますが、『デモンベイン』は宇宙的恐怖というものを巨大ロボ物に特有の圧倒的な熱量によって描き出そうとしています。その意味でコズミック・ホラーとしては正統派だといえますし、そもそも本書と比べることすら失礼に当たるくらいに差があります。宇宙的恐怖と狂気がクトゥルー神話の基本です。パロディならパロディで構いませんが、クトゥルー神話のそうした精神への理解がまったく見られないパロディには心底がっかりで残念です。
 ……まあ、人の嗜好は人それぞれですから何を読んで何を面白がろうが勝手ではあるのですが、本書をクトゥルー神話に連なる作品として、たいした考えもなしに「面白い」と書いてるようなブログなどを読むとイライラしてどうしようもなかったので、お見苦しいとは思いつつもこうしてストレス発散記事を書かせていただきましたとさ。
【関連】『スレイヤーズ!』とクトゥルフ神話 - 三軒茶屋 別館

クトゥルー神話事典 (学研M文庫)

クトゥルー神話事典 (学研M文庫)