『明智少年のこじつけ 1』(道端さっと/ファミ通文庫)

明智少年のこじつけ1 (ファミ通文庫)

明智少年のこじつけ1 (ファミ通文庫)

「だったら、キミがさっき言ったように共犯者がいるんだ。それなら、小林くんが主犯格さ!」
「なあ、京太郎。それ、本気で言ってんのか?」
「ああ……。ぼくは何時でも本気さ!」
「オレには、お前ら以外に友達いないんだが……」
(本書p138〜139より)

 第13回えんため大賞優秀賞受賞作品。
 主な登場人物は5人。学校内で発生する「学校の七不思議」めいた事件。そんな事件が起きるたびに中村先生は明智京太郎に相談を持ちかけます。そして、探偵役である明智京太郎は常に必ず小林修司を容疑者に仕立て上げます。そんなこじつけ推理にすべって乗っかって煽る玉村文美と、京太郎の妹にして小林くんが京太郎の推理に反論すると兄をかばう明智二重。そして主人公にして容疑者にして被害者である小林修司。以上5人からなるその場しのぎミステリです。
 なんといいますか、もう少し面白くできたような、あるいは、これから面白くなるかもしれないと思わないでもないような、そんな勿体なさが漂う作品です。
 本書をひと言で言えば、上記の基本設定からも分かるとおり、通常とは違った意味でのクローズド・サークルがテーマの作品だといえます。すなわち、普通のミステリでいうところのクローズド・サークルというのは、簡単にいえば閉鎖的な状況下で起こる事件のことを指します(参考:クローズド・サークル - Wikipedia)。しかし、本書の場合には、学校内で起きた不思議な事件は中村先生を経由して5人の中で処理されることになります。常に探偵役は明智京太郎で容疑者は小林修司です、もっとも、小林くんからすれば濡れ衣なので最終的には真犯人が見つかりますが、それは言ってしまえばオマケに過ぎません。クローズドな人間関係を維持するためにミステリ的なお約束が露骨なパロディとして利用されています。タイトルのとおり「こじつけ」なのです。それでも、こじつけならこじつけとして、ミステリのパロディに徹してミステリ的なクオリティを高める方向に進んでいれば、本書はもう少し読み口の良い作品に仕上がっていたものと思われます。
 しかしながら、本書は良くも悪くもそういう物語ではありません。
 人間関係において自然と生まれる役割というものがあります。例えば、AとBとの関係ではAはツッコミだけどAとCとの関係ではAがボケだったり。そうした関係性とキャラ付けがもしも意識的意図的に固定化されたものだったとしたら。そんな関係性とキャラクタをどのように思うかは人それぞれでしょうが……。本書は「序章 明智少年のこじつけ」から始まり「第一章 踊らされる人間(ひと)たち」「第二章 ドッグゴッド・ファミリー」「第三章 『K』の悲劇」「第四章 そして『誰か』いなくなった」そして「終章 明智少年の真実」という構成になっています。なので、目次のとおり終章にて意外な真実が語られます。ただ、それはクローズドなものをさらにクローズドにするものでしかありません。意外であるにもかかわらず、その驚きで世界が反転しないことに対する居心地の悪さ。それがどうにもこうにも読み味を微妙なものにしているのだと思います。タイトルに1と銘打たれているからには2巻以降が出る予定なのでしょうけれど、果たして次作以降どういった方向に進めていくつもりなのか、興味がないでもないです。