宇佐悠一郎『放課後ウインド・オーケストラ』集英社

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)

月刊誌『ジャンプスクエア』に連載中の吹奏楽部漫画です。
私立千代谷高校に通う平凡な高校生、平音佳敏はとあるきっかけで同じ学年の美少女・藤本鈴菜と知り合う。彼女は吹奏楽への情熱を持っていたが、学校の吹奏学部は部員もほとんどおらず休業状態だった。藤本に頼られ、平音は全くの素人でありながら吹奏楽部の再建を目指すことになる。。。というお話です。

「平凡な主人公がヒロインに憧れて潰れかけた部の再建を目指す」
スポーツ漫画ではよくあるシチュエーションですが、これが音楽部活漫画になるとまた違った印象を受けます。
平凡な主人公が右往左往しながら、また他の人の手助けを受けながら吹奏楽部を立て直すために努力するところは読むものにカタルシスを与えますし、いわゆる「仲間探し」のようなドキドキ感があります。そういう意味では、素人の主人公が基礎的なことを学びながら各パートという戦力を集めるところなんかはアメフト漫画『アイシールド21』を彷彿とさせますね。必然的に大人数となるオーケストラのメンバを「メンバー集め」によって個々のキャラクタの特長を読者に印象付けるという手法はなかなか巧いです。
タイトルの「ウインド・オーケストラ」とは、「吹いて演奏するオーケストラ」、すなわち吹奏楽構成による楽団という意味です。有名どころでは、東京佼成ウインドオーケストラなんかがありますね。
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オーケストラは一人ではできません。主人公は自らも上達しながら、部長として吹奏楽部全体をまとめていこうとします。

大きな花束が美しいのは、それを構成するひとつひとつの花が、たとえ目立たなくとも手抜きなく美しいからにほかならない。
いわば、ひとりひとりの丹精こめた音ばかり集めて作るオーケストラの音は、無限に贅沢な「音の花束」なのである。
茂木大輔『オーケストラは素敵だ』中公文庫P179)

ともありますが、読者は、はじめはバラバラだった部が「皆でともに音楽を奏でる」という形になる、すなわち「主人公の成長」と「楽団そのものの成長」の二つを同時に味わうことができるわけです。
そして、最新巻(3巻)ではライバル校の登場。

野球部にとっての「甲子園」のように、吹奏楽部にとっては「普門館」という聖地があります。
普門館 - Wikipedia
ヒロイン・藤本鈴菜が「目指せ普門館」という標語を掲げますが、まだ千代谷高校吹奏楽部のメンバーはリアリティのある目標として認識していません。ところが、3巻では偶然にも合宿所で普門館常連のエリート校である賢洋高校と同席することになります。
そこは、和気藹々とユルい部活動を送っている自分たちとは全く異なった世界を目の当たりにした平音。まさに体育会系で、「実力なき者は去れ!」の厳しい世界。
平音は、賢洋高校の部長からも手厳しい言葉を受けます。

「部活」を楽しむ平音たちの活動を「自己満足」と一言のもとに切り捨てられます。
確かに、「コンクールを目指す」「和気藹々とユルく部活をする」というのは一般的には対立している概念です。
過去に平音たちの吹奏楽部が潰れかけたのも「コンクール一辺倒」という流れに対しメンバー間で対立があったからですし、それを乗り越え現時点では「皆で音楽を奏でる」という目標意識でメンバーがまとまっているという状態です。
今後の彼らがどういう方向に進むのか非常に気になりますし、それこそがこのマンガの重要な要素の一つであると言えると思います。
スポーツ漫画のセオリーを踏襲し口当たりよく読者を「吹奏楽部」に入門させたうえで、意外と重要な選択肢をさらりと突きつける。
一見ライトな漫画のようでなかなか侮れないなぁ、と関心すると同時に、続きが読みたくなるシリーズだと思います。