『病院のないしょ 2』(NYAN/ぶんか社)

病院のないしょ? (2) (ぶんか社コミックス)

病院のないしょ? (2) (ぶんか社コミックス)

 2巻が出てたの気付かなかったorz
 ということで、遅まきながらのご紹介ー。内容としては、前巻と同じく看護師(著者は元ナース)のなかなかにハードな日常がコミカルに描かれています。暴露とは違うウラ話系のお話ですが、割と洒落にならないようなことでもサラッと書かれているのが読んでてとても楽しいです(笑)。特定の誰かが主人公になっているわけではなくて、病院ならではのエピソードが漫画調で描かれるというスタイルなので、続きものではありますが、本書だけでも何の問題もなく存分に楽しむことができます。なので、本屋で一冊でも見かけましたらレジに直行されることをオススメします。
 内容としては、TOUCH(手当て)の話、入院生活の話、学生の実技実習の話、不治の病の話、ヤのつく自営業の方の入院話、婦長さんの話、趣味の話、白衣とオシャレの話、結婚に向けての迷走話、ストーカーの話、”忘れ物”の話、ナースの入院話、ナースのムダ話、ダイエットの話、”彼女”としてのナースの話、臨死体験の話、アルバイトの話、白衣自由制の話、病院の動物事情、それに10ページの書き下ろしが付いてと盛りだくさんです。
 病院が舞台の漫画というのはたくさんありますが、そのなかで本シリーズの特徴として挙げられるのは、医療現場で働く人たちが”人として”描かれていることにあります。こういう言い方をすると、じゃあ他の医療漫画に登場する人物は何なんだ?という話になるのですが、思うに、少年誌などで活躍する医師は、『ブラックジャック』や『スーパードクターK』に代表される天才的な腕前を持った人物ばかりです。彼らはミスを犯しません。たとえ彼らの主観ではミス(過失)と思われるような事態に遭遇したとしても、それは彼らが超絶天才医師だからこそ至り得る境地であって、一般的な意味でのミスや過失ではありません。ですが、人間である以上、何かしらミスをするのは当たり前のことです。そういったことをまったく感じさせない人物というのはやはり人間ではないと思うのです。
 もっとも、医療漫画で失敗を軽々に描くことができないのも分かります。ひとつのミスが人命に直結してくるので洒落にならないというのもありますし、また、医療における過失は刑法における業務上過失傷害(致死)と紙一重という事情もあるでしょう。特に昨今は医療過誤における医師の責任の問い方が社会問題として表出してしまっています*1。責任の所在が曖昧なままでは何の解決にもなりませんが、さりとて、すべてを医師個人の責任にしてしまっては医療現場における医師不足を招いてしまいます。テレビドラマ化や映画化もされた海堂尊『チーム・バチスタの栄光』シリーズは医療ミステリでありながらキャラクター小説としての魅力も兼ね備えていますが、その背景には、今の医療を描くには個人の責任の問題を無視できないという事情があることを見逃すわけにはいきません。
 その点、本シリーズに出てくるのは名のない医者に看護師ばかり*2ですが、泥酔患者に点滴針をミスりまくったり変なとこ切っちゃったり注射落として自分に刺しちゃったり患者さんの体内に忘れちゃいけないもの忘れてきちゃったりといった人間らしいミスが何の衒いもなく描かれています。いや、もちろん実際にこんな目にあったら困りますが(汗)、でも、人間がやることですから失敗があるのも当然です。そうした他の医療漫画ではあまり描かれることのない当然の失敗・リスクを踏まえた上での日常が描かれているからこそ、作中に登場する医師や看護師に共感できるのです。もちろん、そうした失敗以外にも知られざるナースの面白エピソードが満載です。
 ついつい小難しい話をしてしまいましたが(汗)、気楽に読めて、それでいてためになるお話ばかりですので、ぜひぜひお読みになってくださいませませ。
【関連】
『病院のないしょ 1』(NYAN/ぶんか社) - 三軒茶屋 別館
『病院のないしょ 3』(NYAN/ぶんか社) - 三軒茶屋 別館
『看護学生のないしょ 1』(NYAN/ぶんか社) - 三軒茶屋 別館

*1:この点、医療現場における責任をチームという単位で考えようとしている『医龍―Team Medical Dragon』の行く末にはとても関心があります。

*2:本書巻末の「あとがきにかえての人物紹介」でイニシャルによる登場人物の簡単な説明がなされています。