『凶宅』(三津田信三/光文社文庫)

凶宅 (光文社文庫)

凶宅 (光文社文庫)

 『凶宅』ってタイトルなので、てっきり供託と何か関係があるのかと思ったらそんなことありませんでした。残念(笑)。
 それはさておき、三津田信三といえばホラーとミステリを融合させた作風で知られていますから、そうした期待を持って本書も手に取ったわけですが、正直微妙な読後感でした。結論からいいますと、本書はホラーに分類されるべき作品でしょう。で、確かにミステリ要素はありますけれど、それは不可解な現象の説明というレベルに留まっています。作者の他の作品に見られる叙述トリックやメタ構造による世界の暗転というようなインパクト、あるいは酩酊感はありません。
 また、ミステリ要素を読者に説明するために本書では三人称描写が採用されています。一人称の地の文であの真相を説明をするのは難しいですからね(笑)。ただ、その一方で、恐怖感を演出するために小学四年生の翔太を主人公にして、その少年に焦点を当てた描写がなされています。その結果として、小学四年生の子供にしては妙に難しい言葉や考えを知ってたりしながらも、三人称にしては妙にたどたどしいという、何とも微妙な語り口になっています。
 恐怖感というか雰囲気は確かにあります。ですが、読後に振り返ってみますと、サブキャラである扇婆や希美の方がよっぽど怖いです。翔太が住むことになった家の問題というメインの物語に怖さがまったくないわけではないですし、読んでてドキドキすることはするのですが……。雰囲気作りに過ぎなかったはずの存在の方がリアルに怖いのが面白いといえば面白いです。
 まあ、毎度毎度大仕掛けを考えるのも大変でしょうし、たまにはこういうのもあってもいいのでは? ということで次作に期待しましょう(笑)。
【関連】
『禍家』(三津田信三/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館
『災園』(三津田信三/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館
(以下、ネタバレにつき既読者限定で。)
 作中での説明はありませんが、結局本書は三津田版ドッペルゲンガー(参考:Wikipedia)ということですよね? つまり、ドッペルゲンガーを未来の死と解釈して、その分身のイメージを登場人物の名前に言葉遊びとして落とし込んだ、ということなのでしょう。アイデア自体は面白いと思いました。ただ、面白いがゆえにホラーとしては微妙なのだとも。
 あと、結末のオチもそれなりに面白いとは思いつつ、でも、それによって”凶宅”という建物へのこだわりがなくなってしまうのはいかがなものかと思いました(笑)。