『六蠱の躯 死相学探偵3』(三津田信三/角川ホラー文庫)

「おまえ、『占星術殺人事件』って知ってるか」
島田荘司のデビュー作だ。江戸川乱歩賞の最終選考に残った――って、おい! まさか犯人は、アゾート殺人をやるつもりだって、その警部は考えているのか!」
(本書p57より)

 アゾート殺人とは、やはり作中での『占星術殺人事件』を引き合いに出しながらの説明によれば、六人の娘の身体をバラバラに切断したうえ、それぞれ最も優れた部位を選び組み合わせることによって完璧な人間(アゾート)を造るという狂気の計画に則って行なわれる連続殺人のことを指します。裏表紙に書かれている、”志津香はマスコミに勤めるOL。顔立ちは普通だが「美乳」の持ち主だ。”などといった煽りに釣られるととんでもない目に遭うことになります。もっとも、シリーズ3作目ですから、そういう読者はあまりいないでしょうが(笑)。
 本シリーズは対象となる人物の死相が視える能力”死視”や呪術といった超自然的要素が組み込まれているという意味で、ジャンルとしてはホラーにしてSFミステリということになりますが、上記のような狂気の計画が動機やパターンとして組み込まれていることによって、本書においては限りなくミステリ寄りになっています。
 ”死視”というのは確かにあり得ない能力ではあるのですが、ただ、少しメタな視線からミステリというものを読み解いてみると、シリーズもののミステリにおいてゲストが登場すると、その人物に対して多かれ少なかれ”死視”のような死の予兆を感じながら、あるいは可能性として考慮に入れながら読み進める方が多いのではないかと思います。そう考えますと、”死視”というのはメタ読みの低次化だといえるのではないでしょうか。作中でも述べられている通り、本来であれば名探偵の推理よりも警察の機動力・組織力がこうした無差別殺人(犯人的には立派な区別がありますが)においては必要となります。それが”死視”によって関係性が生まれ、そこに名探偵の活躍の場を見出すという趣向はなかなか面白いと思います。
 猟奇的狂気的殺人でありながら謎解き自体は比較的アッサリしたもので、ドロドログログロしたものを期待すると拍子抜けの感は否めません。ですが、ひとつの気付きによって謎が氷解していく過程はシンプルながらスマートでこれまた面白いです。
 シリーズが進むにつれてかなりホラーからミステリの方向に物語のベクトルが動いていますが、これから先どのようになるのかは分かりません。正直いって、こんなに気楽に読めるミステリのシリーズになるとは思ってませんでした(笑)。続きが楽しみです。
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