『災園』(三津田信三/光文社文庫)

災園 (光文社文庫)

災園 (光文社文庫)

 幼くして養父母を亡くした奈津江は、実父が経営する施設〈祭園〉に引き取られる。そこに暮らす訳ありの少年少女たち。〈廻り家〉と呼ばれる祈祷所。そして、灰色の女。不安を抱えつつも新しい暮らしになじもうとする奈津江の周りで、ついに惨劇が発生する……といったお話です。
 『禍家』『凶宅』に続く《家》シリーズ三部作最終章、とのことです(本書カバー裏表紙より)。……ってシリーズものだったのですね(笑)。
 確かに、巻末の杉江松恋の解説でも指摘がなされているように、本書を含めた三冊には、”子供の心性を土台にしている”「少年/少女が新しい家で怪に出会い過去の秘密を知る」”という物語の骨子は共通しています(本書解説p424〜425より)。にもかかわらず、本書が《家》シリーズらしく感じられないのは、本書の舞台が施設という点にあると思います。つまり、「家」とはなかなか実感できないからで、それはそのまま本書の主人公である奈津江の心情でもあります。
 ですが、本書を読了した後になれば、本書は間違いなく《家》シリーズを占める一冊だということを理解することができます。本書で描かれている家は家=イエ制度なのです。何気にこれだけでもかなりのネタバレになってしまっている気もするのですが(苦笑)、イエという血縁に縛られた因習が、本書の怪異と不安と恐怖の中核をなしています。
 ミステリとしてはメイントリックが分かりやすいのが少々難点ではありますが、廻る因果、逃れられない因習の恐怖を予感させられる結末にはなかなか味わい深いものがあります。少々言葉遊びが過ぎる嫌いがあって、それがホラーとしての読み口をかなり減じているように思うのですが、前二作までを読まれている方、もしくは著者のファンであれば読んで損のない一冊だと思います。
 以下ネタバレ伏字。(ココから→)廻り家、陰陽の痣、そして、灰色の女の正体である子供たちが順番に灰色の女を演じるというトリック。それらは狐憑き=キツネツキ、すなわち逆さに読んでもキツネツキ、からの連想だと思います。……なんてこといったら怒られるかしら?(笑)あと、最後に明らかとなるイをエと発音するというのは、家=イエからの連想だと思います。(←ココまで)
 まあ、戯言ですけどね(笑)。
【関連】
『禍家』(三津田信三/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館
『凶宅』(三津田信三/光文社文庫) - 三軒茶屋 別館