私家版2011年国内ミステリ ベスト10

 年末ですので書評サイトらしく一応2011年のベスト国内ミステリなんぞを挙げてみます。ちなみに私家版です。刊行年数などにかかわらず私が2011年に読んだ本の中から選ばせていただきましたのであしからず(順位も付けていません)。

折れた竜骨

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

 2011年日本推理作家協会賞長編賞受賞作受賞作品です。12世紀のイングランドに魔法という特殊設定を持ち込んだパラレルワールドが舞台のミステリです。剣と魔法と論理が火花を散らす、ファンタジーとしてもミステリとしても傑作です。パラレルワールドですが歴史物語としても魅力的ですし、何より若者たちの成長物語という側面を見逃すわけにはいきません。オススメです。
【関連】『折れた竜骨』(米澤穂信/東京創元社) - 三軒茶屋 別館

作者不詳 ミステリ作家の読む本

作者不詳 ミステリ作家の読む本 (上) (講談社文庫)

作者不詳 ミステリ作家の読む本 (上) (講談社文庫)

作者不詳 ミステリ作家の読む本 (下) (講談社文庫)

作者不詳 ミステリ作家の読む本 (下) (講談社文庫)

 「死の読書ゲーム」という荒唐無稽な設定にもかかわらず、このねっとりとした嫌な恐怖感はどこからくるのでしょうか。三津田信三といえばホラーとミステリを融合させた作風で知られていますが、両者をつなぐ要素に虚構と現実とが溶け合うメタ的仕掛けがあります。本書はそんなメタ的趣向のひとつの到達点といえるのではないかと思います。
【関連】『作者不詳 ミステリ作家の読む本』(三津田信三/講談社文庫) - 三軒茶屋 別館

さよならドビュッシー

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品です。一人の少女がピアノに向き合うことで確固たる自分というものを見つけ出していく音楽ミステリです。火事によって障害者を負った主人公がハンディキャップを乗り越えていくというストーリーも特徴的です。ストーリーと密接に関連したトリックの有意性も高ポイントです。
【関連】『さよならドビュッシー』(中山七里/宝島社文庫) - 三軒茶屋 別館

女王国の城

女王国の城 上 (創元推理文庫)

女王国の城 上 (創元推理文庫)

女王国の城 下 (創元推理文庫)

女王国の城 下 (創元推理文庫)

 第8回本格ミステリ大賞小説部門受賞作品です。「学生アリス」シリーズ4作目は、新興宗教団体〈人類協会〉の本拠地を舞台とした宗教観の特異性を、論理によって鮮やかに浮かび上がらせています。1990年の日本をしっかりと描くことで、94年や95年にあの組織が「あのとき」へ向かう予兆もそこはかとなく描かれています。
【関連】『女王国の城』(有栖川有栖/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館

子ひつじは迷わない 回るひつじが2ひき

 ライトノベル・ミステリの傑作シリーズ「子ひつじ」ですが、特に2巻所収「VSかぐやテスト」はミステリとして素晴らしい作品です。論理を読み解く探偵と、事件を解決する探偵という二役の活躍が見事に決まっています。2011年ベストミステリ短編作品といっても過言ではありません。未読の方は是非。
【関連】『子ひつじは迷わない 回るひつじが2ひき』(玩具堂/角川スニーカー文庫) - 三軒茶屋 別館

ダークゾーン

ダークゾーン

ダークゾーン

 別に私が将棋ファンだからって無理やりねじ込んだわけじゃないですよ?ウソジャナイデスヨホントデスヨ。……いや、どっちかといえばミステリというよりもSFな気もしないではないです。でも、「ダークゾーン」というゲームの論理性と、現実世界で起きた事件の真相とかを鑑みるとミステリとして評価したほうが妥当だと思うので、熟考の末こっちで。
【関連】『ダークゾーン』(貴志祐介/祥伝社) - 三軒茶屋 別館

完全恋愛

完全恋愛 (小学館文庫)

完全恋愛 (小学館文庫)

 第9回本格ミステリ大賞受賞作品です。身も蓋もないことをいえば「他者にその存在さえ知られない恋」というのは一般に「片想い」と呼ばれるものでしょう。犯罪小説としての完全性と恋愛小説としての不完全性に、理と情という人間のふたつの側面が描かれているといえます。本格ミステリにこだわったからこその成果です。
【関連】『完全恋愛』(牧薩次/小学館文庫) - 三軒茶屋 別館

たましくる―イタコ千歳のあやかし事件帖

たましくる―イタコ千歳のあやかし事件帖 (新潮文庫)

たましくる―イタコ千歳のあやかし事件帖 (新潮文庫)

 「心霊探偵」「幽霊狩人」「ゴーストハンター」といった系譜に連なる「イタコ」探偵。三津田信三作品などとは違った意味でホラーとミステリの中間領域にたゆたう特異なジャンル、怪奇ミステリの傑作です。ときに引き立て合いときに殺し合う情理の関係が、イタコの町を舞台に切なく力強くしなやかに描き出されています。
【関連】『たましくる―イタコ千歳のあやかし事件帖』(堀川アサコ/新潮文庫) - 三軒茶屋 別館

外天楼

外天楼 (KCデラックス)

外天楼 (KCデラックス)

 一巻読み切りの漫画です。「外天楼」というのは作中に出てくる奇妙な集合住宅です。無計画な増築と改築を重ねた結果、すぐそこに見えている部屋でも行き方が分からないという常識の通用しない造りをしている建物ですが、本書全体がまさに「外天楼」であるといえます。ミステリとしてはパロディ色が強い一方、SFとしてはシリアス色が強くて、全体としてはシュールな佇まいの独特な読み味の作品に仕上がっています。
【関連】『外天楼』(石黒正数/KCデラックス) - 三軒茶屋 別館

いわゆる天使の文化祭

いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)

いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)

 似鳥鶏のコミカルな学園ミステリ・シリーズ4作目(5冊目)です。ミステリとしての面白さとキャラクタ小説としての楽しさのバランスが絶妙なシリーズですが、本書ではキャラクタの成長と変化をミステリならではの変化球によってより強く描き出すことに成功しています。トリックのためのトリックではないのが好印象です。
【関連】『いわゆる天使の文化祭』(似鳥鶏/創元推理文庫) - 三軒茶屋 別館


 相も変らぬ文庫主体の読書ライフの人間が選んだベスト10ですのであしからず。時流に乗り遅れた感のあるベスト10かもしれません。ただ、もちろん出版社などにもよるのですが、単行本が刊行されてから文庫になるまでのスパンが短めになってきているのは間違いないです。第8回と第9回の本格ミステリ大賞受賞作がともに今年文庫化されていることなどもその証左だといえます。京極夏彦『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス』(講談社)が単行本、ノベルス(新書判)、文庫、電子書籍という四つの形態で同時発売されましたが(【参考】http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20111021-OYT8T00226.htm)、電子書籍も含めた本の形態のあり方が、今後さらに見つめ直されることになるのでしょう。
 私の読書ライフの明日はどっちだ!?
【関連】私家版2010年国内ミステリ ベスト10 - 三軒茶屋 別館