『ラノベ部』(平坂読/MF文庫J)

ラノベ部 (MF文庫J)

ラノベ部 (MF文庫J)

 表紙絵のキャラクターが手に持っている本の表紙絵に本書の表紙絵が描かれているという入れ子細工構造のカバーイラストと、『ラノベ部』というタイトルが端的に表しているとおり、本書はライトノベルについて書かれたライトノベル、すなわちメタ小説です。
 ライトノベルとは何かを定義しようとするとこれがなかなかに厄介な問題なのですが(参考:ライトノベルの定義を法律の学説っぽくまとめてみる)本書の場合には、なんかそういうのですんでしまっています。それというのも、「生命とは何か」が定義できなくても生物は存在していてそれについて考えることができるのと同じで、たとえ定義不能なものであっても実際に手に取っているものを対象とすることで話を進めることが可能になるわけです。メタな趣向とテーマとが噛み合っているのが本書の面白いところです。
 ライトノベルのことなんかまったく知らない少女が軽小説部=ラノベ部に入部することになって、その部員たちがラノベにありがちなギミックやガジェットや疑問点などについて適当に駄弁っていく、という細かい小ネタによる章立てで本書は構成されています。ファンタジー世界の住人たちがファンタジー世界の疑問について答えながら何となく物語が生まれていく『ファンタジーRPGクイズ』という本がありましたが、それのライトノベル版で小説っぽくなったものといえば、分かる人には分かっていただけると思います(笑)。
 個人的には、変な語尾をつけることでのキャラ付けという話題から、語尾に人名をつけることでそのセリフを名言っぽく捏造する遊びが始まって、そのセリフをどのキャラがいっているのかというキャラ性をいつの間にやら読者が読み解くことになる「にょ」というお話がいかにもメタっぽくて好きですが、基本的にはどの話もリラックスして気楽に読むことができます。
 ただ適当にお喋りをしているだけなのですが、男女七人○物語的な部員の構成ということもあって、それなりに恋愛模様なんかも感じさせるものになっています。ライトノベルという物語について語っているうちにいつの間にやら物語らしきものが生まれてきています。
 ライトノベルについて語るライトノベルという自己言及的メタ物語は、それを読んでいる読者にとっては自己肯定的な甘い悦びを感じさせてくれます。そういう本を無邪気に面白がってしまうと自己陶酔の罠にはまってしまうので注意が必要ですが(笑)、でも面白いです。キャラクター主体の掛け合いによってページが消費されていくのですが、そこには起伏にとんだストーリーもなければ理解を求められるようなテーマもありません。ラノベ部員によるラノベ部の日常。
 どこにでもありそうな日常をつなぐものとしてのラノベ。そんなの別にラノベでなくてもいいのですが、でも、それがラノベであってもいいんじゃないの? というような脱力具合が押し付けがましくなくて心地いいです。メタ小説なだけに「これが一般的なラノベだ」とはいえませんが、「こんなラノベもあっていいんじゃない」とはいえる一冊です。
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