『魔法少女を忘れない』(しなな泰之/集英社SD文庫)
- 作者: しなな泰之,越島はぐ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/06/25
- メディア: 文庫
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知らない女の子が突然やってくるという導入はいかにもありがちですが、そんな幾多のありがちな設定・お約束というものについて様々に考えさせられた作品です。
妹、とはいうもの別に血のつながりがあるわけではなくて、養子縁組による妹です。なので恋愛関係にいたっても何ら問題はありません。もっとも、物語的にはそんな直接的なことをいってしまうと身も蓋もないのですが(苦笑)。
「妹」に限らず、少年向けライトノベル作品では女性キャラに「属性」が付与されることが多いです。本書でいえば、みらいは妹ですし、千花は幼なじみです。どうしてそのような「属性」が設けられているかといえば、「彼女」という属性を付与されないためにあると思うのです。「属性」から生まれる関係性、あるいは関係を求めるがゆえに付与される属性ということもあります。いずれにしても、そうした属性を持った女性キャラクタが何人か登場するお話においては、誰に「彼女」という属性が付与されるのかという関係性の変化がラノベ的な恋愛模様の基本ではないかなぁと思ったり。そんなことを本書を読みながら強く感じました。
主人公の裕也は昨今の少年向けライトノベルの主人公の例に漏れず鈍感です。それは、メタ的にいえば読者に対してのカメラ役であることが求められるが故に自身の内面についての描写が空疎になってしまうということではあるのですが、そうしたお約束にも本書は踏み込みます。
本書はみらいと裕也と千花と直樹の4人の少年少女の物語ですが、上記のような関係性・変化の問題について踏み込み、さらに裕也の内面の問題を直接指摘する役割を担わされているのが千花です。元魔法少女でもなければ主人公でもない彼女ですが、物語的に実は一番大事なキャラだと思います。彼女の作中での変化と決断は、属性といったものが必ずしも物語上のお約束的な要請によるものとは限らないということの証左だといえるでしょう。
一方で、”魔法少女”とは何かという点についてはスルーだったり主人公の女装が完璧だったり裕也とみらいの親の役割が重要であるはずの割にはあまりにも影が薄かったりと、お約束に乗っかるべきところは乗っかってます。その辺りの匙加減がとても興味深いです。
ちょっと奇妙な日常がこじんまりと描かれた、こっ恥ずかしい青春小説です。オススメという程ではありませんが興味のある方はぜひ。