雑談小説と安楽椅子探偵小説

 ネットの海をさまよってて気になった記事についてつらつらと。

時代は『ハルヒ』型から『らき☆すた』型なのか。
と安直に考えたくないものの、雑談小説とでも呼ぶべきジャンルが急速に増えているのは事実だ。
さあ? 広がる雑談小説ブーム? 『ラノベ部』より。)

 雑談小説という言葉がどれくらい一般的なものなのかは判じかねますが*1、試しに『ラノベ部』を読んでみましたところ、確かに「四コマ小説」と呼びたくなるのも頷けます。四コマ漫画、特に昨今の萌え四コマ(参考:Wikipedia)のように主として個性的なキャラクターたちの会話によって成立している4コマ漫画と、ときにキャラクター小説と呼ばれることもあるライトノベルとの間にそれなりの親和性があっても不思議ではありません。
 ただ、小説という表現形式にこだわって考えてみますと、いわゆる雑談小説に当たるようなもののルーツはミステリにおける一形式の安楽椅子探偵ものにあるのではないでしょうか。
 例えば、在原竹広『ようこそ無目的室へ!』という作品がありますが、これは無目的室と呼ばれる一室での生徒たちのお喋りだけで物語が進んでいますので、やってることは雑談小説と何ら変わるものではありません。ただ、そもそも『無目的室』はアシモフ黒後家蜘蛛の会』がモデルとなっておりまして、そうして考えますと、『無目的室』は雑談小説というよりは安楽椅子探偵もののミステリとして読み解くのが本来の姿だといえるでしょう。
 安楽椅子探偵とは、探偵が現場に出向くことなく、伝聞で聞いた謎をその場(安楽椅子に座ったまま)の推理で解き明かすというパターンでして、大抵は限られた一室内の会話のみで物語は完結します(参考:Wikipedia)。
 ミステリの中心にはトリックがあります。そのトリックが長編向きであれば長編小説として仕上がりますが、それほどの耐久力がないトリックやアイデアの活かし方のひとつとして、当事者たちの動きもなければドラマ性もなくて、それでいて小粋な物語様式として安楽椅子探偵ものが生まれたと考えられます。
 一方でライトノベルは長編が基本で、短編集は長編シリーズを補完するものとして存在するというのがこれまでのパターンです。長編という大きな物語の隙間を埋めるための短編というわけです。しかしながら、ライトノベルというのは本来何でもありのカテゴリです。そして、長編物語の飽和や、あるいはミステリの場合と同じく長編向きでないとされて切り捨てられたアイデアの活用方法として、雑談小説というものが生まれてきたのではないか、ってなことを思ったりしました。

ラノベ部 (MF文庫J)

ラノベ部 (MF文庫J)

ようこそ無目的室へ! (HJ文庫)

ようこそ無目的室へ! (HJ文庫)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

*1:少なくとも私は初耳ならぬ初見です。なので、今回はこの記事内に限定して雑談小説という言葉を使いますが、今後も使い続けるかは不明です。